#7 箱根駅伝2023展望

さて、本日12月10日第99回箱根駅伝のエントリーメンバーが発表された。東洋大学のエントリーは以下の通りである。

(4年)荒生 実慧 柏 優吾 木本 大地

        児玉 悠輔 清野 太雅 前田 義弘

(3年)九嶋 恵舜 熊崎 貴哉 佐藤 真優 

       十文字 優一 村上 太一

(2年)石田 洸介 梅崎 蓮 小林 亮太

(1年)網本 佳悟 西村 真周

 

今回は各区間の希望を記したいと思う。又、敬称は省略させていただく。それでは始めていこう。

1区:児玉悠輔

今回の1区の注目はやはり吉居大(中央)。今年の箱根駅伝では、長く止まった時計の針を動かす区間記録を樹立し、全日本大学駅伝では前日まで体調不良ながら6区の区間記録を塗り替えるなど、"確変"は新シーズンに入っても続いている様子。遂に実現が期待されるのがオリンピアン三浦(順天堂)との直接対決。今年も序盤からハイペースが想定され、力の足りない選手は容赦なく振り落とされるだろう。必ずしも濃いメンバーではなくとも濃い展開が予想される今回の1区、児玉は松山のいない現メンバーでは最も強い選手と言える。出雲駅伝では吉居について行き早々に失速、全日本では自身初の1区以外の区間(3区)を担うも目立つ働きはできなかった。今季の児玉は調子が良く自信満々な発言が多く見受けられる。だが駅伝ではそれが気負いとなり、空回ってしまっている。今回はエース不在のため最上級生としての責任感もきっとあり、「2区以降に楽をさせたい」という気持ちからオーバーペースで入ってしまう懸念はあるが、最後は走り慣れた1区で、高まった走力に加えて持ち前の狡猾さを存分に発揮して欲しい。区間賞を獲りに行く走りではなく、あわよくば区間賞の走り。その走りこそが最もチームの助けとなる。

2区:石田 洸介

今年の2区は前回と比べると多少手薄になるだろうか。"学生長距離界のエース"田澤は3区に回るとされており、史上最強留学生との呼び声も高いヴィンセントもまた、自身が区間記録を持つ3区への再挑戦が噂されるからだ。とは言え腐っても華の2区。彼ら2人が他区間にエントリーされるとしても、今や学生長距離界で2番目に強い日本人の近藤(青山学院)、前回3区区間賞の丹所(東京国際)、黄金世代とも言われる現3年生世代にあって1年時に断トツの活躍をした石原(東海)、昨年度、世代No.1の石田や鶴川を差し置いて一躍名を挙げた平林(國學院)、そして歴戦の留学生たちと、決して簡単ではない。さて、過去2年2区を走りどちらも区間5番以内日本人2位と好走した絶対的エースが不在の今回。正直オーダーとしては梅崎だと思うが、ここは石田を期待したい。約15年前5区で頭角を現し、長らくエース力で勝負してきた鉄紺、伝統的に相性の良いこの2区間が未知数の状況は2017年を思い出す。当時もエース5区共に不在の中、酒井監督に公の場で「まだエースではない」とまで言われてしまった当時2年の山本修二(旭化成)が2区を担い、翌年は3区区間賞、翌々年には2区に再挑戦し区間4位日本人2位と文句なしの成績を残し、名実共にエースとして成長した。今春は自転車事故の怪我で出遅れ、秋は出雲全日本共に主要区間を走るも見せ場なく終わってしまった石田。陸上部創部以来の原石とも言える逸材の育成に慎重になるのは理解できるが、あまりに過保護な印象を受ける。燦然と輝く宝石になるには、指揮官のかつてのような厳しさも必要と思う。

3区:熊崎 貴哉

駅伝に限らず高速化が顕著な近年の長距離界。下り基調の3区には高速化の波に鍛え上げられたスピード自慢が集結する。東洋大はこのスピード駅伝に対応しきれず近年は不振に喘いでいるが、大学駅伝未出場の今季急成長を遂げた大器が救世主になるかもしれない。今季は全日本大学駅伝予選会2組を走り、日本人1位の好走で予選突破に大きく関与。出雲全日本共に走ることは叶わなかったが、全日本大学駅伝の直後に行われた記録会では10000m28分36秒36とチーム内最速のタイムを記録。なぜ全日本で走れなかったのか不思議なほどの力の持ち主である。エース不在の今季、中間層としてはかなり層の厚い今年の4年生が抜ける来季と、チームとして簡単ではない課題が残るが、出雲全日本と苦しんだゲームチェンジャーとしての働きができれば一気に事情が好転するだろう。未知に期待するのは、人間の性ではないだろうか。

4区:梅崎 蓮

遡ること4大会前、当時3年の東洋大・相澤晃(旭化成)を抜擢し区間新記録、往路優勝を果たした91回大会を契機として、一層準エース区間としての認識が強まった4区。一時期と比べると落ち着いた感はあるが、それでも各校自慢の選手を起用してくるものである。今季の梅崎は関東インカレで2位、全日本大学駅伝で組3番、出雲は間に合わなかったが全日本ではエース区間の7区を走り区間7位と上々の成績。勝ち切れない点や攻めの走りができない点が若干の短所と見受けられるが、秘めたる能力は相当の物。長い距離に適性があり、本人も過去に発言している様に復路の方が適していると思うが、今季の復路が充実している点も含めて往路を経験させるのは良いことでしかないだろう。コース適性としては石田が適任であるが、酒井監督の梅崎への評価は時期を経るごとに高まっており、往路抜擢も不思議ではない。前述の様な短所のため現状は単独走よりも集団走の方が活きるタイプと見ており、今回の1人ずつ選手を拾って行けそうな展開は好材料。一点、どこかで「上りは強くさない」という情報を得た記憶があるのが気になるところではある...(いくら調べても出てこない)。往路への挑戦でメンタル的な殻を破り、松山石田に並ぶネームバリューを得て欲しい。

5区:佐藤 真優

3年連続山上りを担った宮下隼人(コニカミノルタ)が卒業し、未知となった今回の5区。特別上りが強い選手は今季のチームには見当たらず、タイムを稼ぐことは期待できない。そんな中、言わばこの"潰れ役"を期待したいのが前回3区を走った佐藤。今季は関東インカレ10000mで入賞したものの出雲は珍しく粘れず、全日本は出走なし本来の姿を見せられているとは言えない。元々、酒井監督には1年時から松山と同じくらい期待されていた当選手。「松山の不在を感じさせない走りを」とその信頼は未だ揺るがないようで、主要区間を担うのはほぼ確実だろう。本人は自身の長所として『コース条件を選ばないこと』と『粘り強さ』を挙げており、正にオールラウンダー。1年時からコンスタントに出場しており当然替えの利かない主力の1人ではあるが、松山と同等の期待を背負う程の活躍ができているかと問われると疑問符がつく。高校3年時の関東高校駅伝都大路花の1区を当時2年生ながら区間賞に輝いた白鳥(駒澤)に勝ち切った実績からも、"耐える起用"で終わる選手でないのは明々白々。次期主将候補筆頭として、当初の期待通りエースを追い越さんばかりの覚醒を願って止まない。

6区:西村 真周

山下りのスペシャリスト今西駿介(SGH)の後任として過去2年この区間を走っている九嶋が今回も妥当だとは思うが、個人的には西村を期待したい。本人の希望は6区であり、エントリーメンバーからも西村か九嶋かの2択と推測される。今季はここまで1年生の出場がない駅伝シーズンとなっているが、これは2015年まで遡る。駅伝シーズンは結果こそ出ていないものの、今年の上級生はなかなかに力のある面々が揃っており、決して1年生のレベルが落ちるということではない。しかし、エース松山が最終学年を迎える来年を見据えた時、中間層として抜群の信頼感を誇る4年生が卒業するため、九嶋は平地で使いたいだろう。そういった諸々の事情を考慮すると、仮に6区で西村が失敗してもシード権逸脱にまで発展するとは考えにくいため、全く力がなければ問題だが、そうでないならば1年生を起用するメリットは大いにあると考えている。思えば九嶋も1年時に実績のないまま6区に起用されて今がある。ドラフト1位の吉村が退部してしまい、入学直後6月の全日本予選を走るなど最も期待されていた緒方がエントリーを回避するなどあまり明るい情報のない1年生だが、元々は学校史上トップクラスの好スカウト。最終戦で1年生唯一の3大駅伝出走を果たし、この学年が黄金時代を築く礎となれるだろうか。

7区:九嶋 恵舜

非常に走りやすく選手を選ばない7区は、そのコース柄1、2年生の駅伝デビューに使いやすい反面、優勝候補はここで優勝を確実にするために、あるいは反対に逆転への一手として戦略的な意図を持って選手を置くこともしばしば。山下りで勢いが付くことは多いが、ギャンブル色の強い特殊区間に比べて10区間中最もシンプルなこの区間は実力が如実に現れ、それもまた勢いに直結する。私はここまでで6位〜9位と想定しており、シード圏外まで含めまだまだ順位変動の可能性は高いと見ている。そのため例年通りの堅実に走れる選手よりかは、2大会前に西山和弥(トヨタ自動車)を配置した背景の様な攻められる選手を期待したい。今回のエントリーで追う走りができるのは石田と九嶋の2名と考えており、九嶋は故障明けの全日本も1人気を吐いていた。一昨年からずっと懸念している箱根の距離への対応は未だ怪しいが、6区を2年走っているのだから7区なら問題ないだろう。入学時こそ話題性に欠けたが、蓋を開ければ学年で1番駅伝を走っている九嶋。先輩そして憧れの今西の様な影の立役者となる素質は充分備えているだろう。目立たないながらも多大な貢献をしてきた彼が最も輝く舞台での起用を期待している。

8区 前田 義弘

相手なりに走る高い安定感が評判を呼ぶ主将。箱根駅伝皆勤を目前に、1年時に駆けた8区への再挑戦を期待。本人の希望は昨年走った9区あるいは一昨年走った往路との事だが、個人的には他に適任がいるだろうという見解。しかしこの8区こそ前田のタフさが最も活かされる場所と考えており、スピード区間の3区とスタミナ偏重の9区という異色の経験をしてきた彼だからこそ、8区という区間で還元できるものがあるのではないかと思う。関東インカレハーフでは入賞こそしたもののチーム内最下位となり、全日本予選は出走が叶わず、出雲全日本共に出走こそしたが武器の安定感を発揮することはできなかった。決して描いた通りの4年目ではなかっただろうが、数多くの選手が入部しながら遅咲きの多かったこの学年を1年目から引っ張ってきたキャプテンには、確かに花道を飾る資格がある。

9区 柏 優吾

8月の北海道マラソンにて、初マラソンながらMGC資格を取得した鉄紺の頼れる長距離砲。埼玉県出身ながら高校は愛知の名門豊川高校に越境入学し、3年時には主将まで務めた実力者。ここまで出場した3大駅伝は昨年の出雲駅伝6区、今年の全日本大学駅伝8区のみ。昨年も9区筆頭と期待されていたが調子が上がりきらずに回避した。そんな背景もあり、箱根にかける想いは人一倍強い。彼に関しては言葉は必要ないだろう。あくまでも夏合宿の集大成という位置付けで挑んだ初マラソン2時間11分台で走ってしまう選手が最長区間の9区に合わないわけがない。タイプ的にも復路にピッタリで懸念点があるとすれば状態面か。全日本には間に合ったもののそのレースで捻挫をした疑いがあり、調整は簡単ではないだろう。昨年の悔しい思いは要らない。MGC取得者として格の違いを見せつけ、最初で最後の箱根路を悔いなく駆け抜けて欲しい。

10区 清野 太雅

この清野もまた、柏と同じく北海道マラソンでマラソンデビューを果たした。MGCには1歩届かなかったが2時間12分台で走破し、柏と大差ない長距離適性を示した。しかも40kmを走ったのがこのレースが初めてというのだから驚きである。入学以来あっと驚く強烈なスピードで成長してきた清野。10区には現区間記録保持者である中倉(青山学院)も想定されるが、当ブログで何度も強調してきた驚きの成長力区間賞を獲得してくれるかもしれない。1番底が見えないのは4年生の彼だろう。

 

最後に

今回のエントリーの総括としては、何度も話題に挙げているようにエースの不在がとことん痛い。出雲全日本とゲームチェンジャーの不足が明るみになり、想像以上に松山がキーパーソンであったのだなと外野から見ても感じた。また、出雲駅伝全日本大学駅伝で1年生を1人も起用できなかったのも痛い。主力には4年生が多く、来年以降立て直しが必要になる役割も多い。それで結果が出ているなら問題はないが、状況はあまり芳しくない。今回の箱根では来年度に向けて上積みがあると良いなと思う。しかし何よりも望むのは選手たちが怪我なく後悔なく走り終えること。来年の正月もテレビの前でしっかりと見届けたい。それでは今回はこの辺で、有難うございました。