#6 臙脂の名門はなぜ凋落したのか

皆さんは、大学駅伝における『名門』を問われたらどこと答えるだろうか。大会記録を更新し続ける青山学院大学だろうか。実業団に行っても活躍する選手が後を絶たない駒澤大学だろうか。それとも、最多優勝14回、史上唯一の6連覇を成し遂げた中央大学であろうか。どれも正しく、間違いなく名門ではあるのだが、青山学院や駒澤を語る前に忘れてはいけない大学がある。それが、今回のテーマである早稲田だ。2010年度には当時3校目となる学生駅伝三冠を達成したもののそれ以降の優勝はなく、それどころか箱根駅伝では直近5年で2度のシード落ちと、とても優勝候補には挙がらない現状である。これほどまでに急失速してしまった理由はなんだろうか。今回は、私なりにできるところまで考察してみたいと思う。

 

1.指揮官の交代

まず始めに要素の1つとして挙げられるのは指揮官の交代である。2010年度以降優勝がないとは言っても、それ以降も指揮官が交代する2015年度まで箱根では毎年トップ5には入っていた。指揮官の交代理由としては契約満了かつ実業団チームの監督に就任するということであったが、これに関しては三冠後数年結果が出なかったことによる実質的なクビとの説が有力である。その後は、当時の監督の元でコーチを務めていた方が監督に就任している。

2.選手層

"学生"スポーツと言えど、当然ながら多くが大学からスカウトされ入学するのが一般的である。そのため、より能力のある選手をスカウトすることができれば、スタートラインでは優位に立てる。早稲田ではそもそも、この推薦枠が他校より少ない。詳しい数は存じ上げないのだが、例えば今年の東洋と比べると半分程度の人数であったと記憶している。ただ、何も推薦枠の少なさだけがこの結果に繋がっているということもない。なぜなら早稲田の枠は以前から少ないからである。それをかつては一般入学組で補っていた。つまり、推薦枠の数は不利な状況へ追いやる1つの側面ではあるが、絶対的に大きな理由とも言い切れないのだ。

3.陸上長距離界の潮流

最後は少し視点を変えて、大学内部ではなく陸上長距離界全体の流行に着目したい。まず近年の学生駅伝は当ブログで何度もお話ししているように、戦国時代と言われている。青山学院を始めとする新興勢力が力を付け始め、より優勝が難しくなっているからだ。ここのところは育成力の高いチームが増え、有力選手が散らばる傾向にある。また、大学を卒業後は実業団に進むケースが増えた。これがどう影響するかと考えてみると、まず卒業後も実業団で陸上を続けるとなれば学歴はさほど重要ではなくなる。加えて有力校が増えたということは、学生側もより進学先を選べるようになったということだ。即ち、高い練習環境に身を置くことができ、卒業後も実業団での活動を考慮に入れているのであれば、わざわざ難易度の高い早稲田に一般入試で進学する必要性は低い。もっと言えば、どうしても早稲田に進学したい理由がないと考えられる。近年の高校生の中では大学のブランドよりも育成力が重視されているようだ。

4.総括

以上の3点を『監督の交代のタイミングで陸上長距離界に過渡期が訪れ、育成力をはじめとした魅力の部分で他の学校に遅れを取ってしまい、その遅れを取り戻すだけの学校のバックアップ(推薦枠の拡大)がなかった』とまとめ、今回は締めたいと思う。

最後に

今回は近年の早稲田がなぜ苦戦を強いられているのか度々考えていたためまとめてみた。私には悪夢の記憶として忘れもしない2011年(2010年度)の箱根駅伝。歴代最小タイムで早稲田に次ぐ2位に敗れたのが東洋大であった。そんな早稲田が優勝争いどころかシード争いを強いられている現状を他校ファンながら残念に思う。早稲田は先日新監督が就任し、昨年度まで監督を務めていた方もコーチに復帰、新体制となることが発表された。もちろん優勝して欲しくはないのだが、あの頃の駅伝に惹かれた身としてはいつの日か早稲田が強さを取り戻し、早稲田東洋駒澤が3強として優勝戦線を賑わせる時代が戻ってくることを切に願っている。今回はこの辺で、有難うございました。