#5来たる2022シーズン!~鉄紺を継ぐ者たち~
さて、箱根駅伝が終わりどこも4年生が退寮し、新体制へと移行し始めたこの3月。別れがあれば出会いもあるということで、新1年生が入寮する時期でもある。今回は、そんな次世代を担う鉄紺戦士たちをまとめてみたい。ところで、今回から文末の口調を変えてみることにする。「です。ます。」口調では私自身書いていて面倒であるし、読んでいても読みづらいと思ったためである。今回は、東洋大学長距離部門公認ホームページ『輝け鉄紺!』に記載されている情報を基に私個人の主観を加えて紹介する、という形を取らせていただく。今年は過去最高クラスの好スカウトで、とてもワクワクしている。それではやっていこう。
1.吉村 聡介 (豊川高校)
・5000m 13分53秒90
・10kmロード 28分56秒
19愛知県高校駅伝2区3位
20愛知県高校駅伝1区2位
20全国高校駅伝4区45位
21愛知県高校総体5000m1位
21東海高校総体5000m2位
21インターハイ5000m出場
21愛知県高校駅伝1区1位
21全国高校駅伝1区46位
1人目は愛知の名門豊川高校のエース、吉村選手。東洋大学新4年生の柏選手の後輩に当たる。5000m13分台は近年希少価値が薄れてきているとはいえ強さの証。21年の愛知県高校駅伝1区ではスタートから先頭へ駆け、堂々の区間新記録を樹立。前年スローペースで流れ中継所の手前でかわされた反省から、序盤から押し切ることに決めたそう。自分のペースで最後まで行ききるというのは実力あってのもの。実績、能力共に疑いの余地はなく、即戦力としての活躍すら期待される大物ではあるが、全国大会で軒並み失敗している点が気になる。単に調子を合わせられなかっただけなのか、全国の大舞台でのプレッシャーに潰されてしまったのか気になるところではあるが、そこは我々が考えても致し方ない。兎にも角にも、高校生で10kmロードを28分台で走っているという点は非常に頼もしい。いずれは鉄紺の中心を担ってくれるであろう彼が、全国大会の呪縛からどう解き放たれるのか。そういった点も楽しみである。
2.緒方 澪那斗(市立船橋)
・5000m 13分54秒45
・10000m 28分36秒67
19千葉高校駅伝4区1位
19関東高校駅伝3区5位
20千葉県高校駅伝3区1位
20関東高校駅伝1区7位
21千葉県高校総体5000m1位
21インターハイ5000m10位
千葉県高校駅伝1区2位
関東高校駅伝1区1位
2人目は1年生の頃からチームの主力に名を連ねていながら、高校3年間で駅伝の全国大会を経験していないという異色の経歴を持つ緒方選手。市立船橋は渡辺康之さんの母校でもあるように、数多くのタレントを排出してきた名門中の名門だが、市立船橋→東洋の推薦入学はもしかすると彼が初めてというほどに珍しい。何と言っても特筆すべきは、高校生にして大学生の上位層と同等の10000m28分30秒台の自己ベストを持っているところだろう。6月に全日本大学駅伝の予選会を控える東洋大学にとっては正しく即戦力と言っても差し支えないはずである。また、速い自己ベストを持つ彼の加入は上級生への刺激になるはずであり、チームのトラックのタイムにも変化があれば尚嬉しい。余談だが、緒方選手は21年の東洋大学の夏合宿に参加している画像が当時から界隈で注目されていたため、ほぼ入学確実と思われていたが実現して非常に安堵している。"全国を知らない全国区の選手"が、大学の舞台でどのように羽ばたくのか、これからの4年間に目が離せない。
3.西村 真周(自由ヶ丘)
・5000m 13分55秒92
・10kmロード 29分33秒
・19福岡県高校駅伝7区2位
・19全国高校駅伝7区2位
・20福岡県高校駅伝3区3位
・21福岡県高校総体5000m1位
・21北九州高校総体5000m1位
・21インターハイ5000m13位
・21福岡県高校駅伝1区2位
・21全九州高校駅伝1区6位
・21全国高校駅伝1区16位
3人目は5000m13分台三人衆の最後のひとり、西村選手。福岡といえばやはり大牟田のイメージが強いかもしれないが、この自由ヶ丘も都大路にも出場している実力のある高校。西村選手も吉村、緒方両選手と同様に1年時からチームの主力を担い、全国の舞台でも安定した成績を残している。先日の日本クロスカントリーU20男子8kmでも6位入賞を果たし、タフなコースへの適性も示した。記録としては前述2名ほどの派手さはないが、様々な舞台でコンスタントに結果を出せる能力の高さは間違いなく全国屈指であろう。どうやら進学先を選ぶ際、高校の1学年先輩である山本選手の進学した國學院大学と東洋大学とで迷った結果東洋を選んだようで、どこが決め手となったのか、いつか雑誌のインタビューか何かで喋ってくれることを密かに期待している。彼が卒業する際、東洋大学を選んで良かったと思えるような偉大な選手へと成長することを心から願っている。
4.藤宮 歩(学法石川)
・5000m 14分04秒46
・19全国高校駅伝5区6位
・21東北高校総体1500m出場
・21全国高校駅伝4区14位
4人目は東洋大学で偉大な足跡を遺した相澤晃さんをはじめ、松山選手の後輩でもある藤宮選手。私自身1番楽しみなのがこの選手である。経歴を見てお分かりのように、1年時から名門学法石川のメンバーに名を連ね、区間賞の獲得歴もある逸材である。もちろん知ってる人は知っているが、この藤宮選手、実は3000mの全中チャンピオンである。鳴り物入りで入学するも、度重なる怪我に悩まされ遠回りをしながら復活への道程にいる。5000mは20年には14分35秒であったが、昨年12月に14分04秒46を記録。13分台ランナーが非常に増えた昨今にあっても、14分1桁は素晴らしいタイムである。高校時代はエースとしての活躍が期待されるも、最終的には同級生の山口選手(早稲田大学内定)、菅野選手(東京国際大学内定)に"置いて行かれた感"は否めないが、彼の強さは発展途上にあると私は思う。3年時には主将も任され、挫折から復活した"元中学チャンプ"が大学で再び大輪を咲かせることが出来るか。かつて世代を制した彼だからこそ、語れる物語があるはずだ。
5.網本 佳悟(松浦)
・5000m 14分12秒37
・10000m 29分22分80
・19全九州高校駅伝4区13位
・19全国高校駅伝4区37位
・21長崎高校総体5000m2位
・21北九州高校総体5000m8位
・21全国高校駅伝1区30位
5人目は3000mで長崎県記録を更新した網本選手。5000mも高校生では上位30位前後には含まれるタイムと推測されるが、九州地区、全国大会では苦労したという印象。松浦高校は部員も僅か18人とかなり少ない中でコツコツと努力を重ねこの自己ベストのため、より高いレベルに身を置き、周りと切磋琢磨できれば大学での更なる飛躍も充分にあり得るだろう。将来はマラソン志望とのことだが、こういった選手が思わぬ伸び方をしたら面白い。
6.岸本 遼太郎(高知農業)
・5000m 14分16秒89
・10kmロード 29分21秒
・19四国高校駅伝3区10位
・19全国高校駅伝1区41位
・21四国高校総体5000m2位
・21インターハイ5000m出場(棄権)
・21四国高校駅伝1区3位
・21全国高校駅伝1区14位
6人目は梅崎選手を彷彿とさせるようなロードでの安定感が光る岸本選手。1年時こそ四国駅伝や都大路での失敗があるものの、3年時の個人の5000mの結果は立派であり、都大路では1年時の借りを返すかのような好記録。梅崎選手の入学時のタイムとさほど変わらず、3年時の都大路の順位も近く、後の梅崎選手の活躍を見るに非常に高い期待感を抱いてしまう。突出するタイムを持たずとも、ロード適性の高さによっては出世頭になっても不思議ではないだろう。
7.山下 翼(熊本工業)
・5000m 14分20秒16
・10kmロード 30分18秒
・21熊本市陸上選手権3000m1位
・21南九州高校総体5000m出場
・21全九州高校駅伝3区10位
7人目の山下選手だが、正直この選手は存じ上げていない。5000mのタイムはもちろん悪いタイムではないが、如何せん今年のメンバーはレベルが高いことからもまだ何も想像できないというのが本音である。しかしロードはある程度やれそうな印象を受けるため、スピードを強化できれば面白い存在になり得るだろう。
8.稲葉 夢斗(那須拓陽)
・5000m 14分27秒47
・19栃木県高校駅伝2区1位
・19全国高校駅伝7区34位
・20栃木県高校駅伝7区1位
・20関東高校駅伝3区5位
・21栃木県高校総体5000m1位
・21北関東高校総体5000m出場
8人目は多くの強豪大学への進学者が後を絶たない那須拓陽のエース兼主将の稲葉選手。ここまでお読みいただいた方には「あまり強くないのかな」と思われるかもしれないが少しお待ちいただきたい。この選手はある種"特殊"なのである。というのも、3年時の4月頃から左膝に違和感を覚え、21年の地区予選は痛み止めを打ちながら走ったという。検査の結果即座に手術を行い、3年目をほぼ棒に振った形となった。高校に入ってからは強くなるためにストイックな食生活に変え、見る見るうちに実力を確かなものにしていった。ハートの強い選手のようで、2年時の関東駅伝での走りに東洋大学の酒井監督も『レベルの高い選手に食らいつく姿勢や苦しい時も我慢できる粘り強さなどが「東洋にぴったりだ」』とべた褒めの様子。今の"東洋らしさ"を確立したと言っても過言ではない酒井監督自身が言うのだ、特別なものを持っているのは間違いないだろう。本人は箱根駅伝では1区か6区を希望しているとのことだが、この2区間は特に粘り強さが求められる区間であるため、非常に向いていると思う。大学では、こういった気持ちの強い選手が大きな成長を遂げることは非常に多い。また、5000mの自己ベストも2年時のものということで伸びしろは学年で1番ではないだろうか。幸い今年の1年生には世代上位の強い選手が多く入学してくる。負けん気の強い彼には絶好の舞台で"鉄紺を象徴する"ような泥臭い走りを観たいものだ。
9.大宮 大虎(盛岡大附)
・5000m 14分33秒43
・19東北高校駅伝1区20位
・20岩手高校駅伝1区1位
・20東北高校駅伝1区11位
・21東北高校総体5000m出場
さて、最後の1人となった大宮選手。この選手の5000mのタイムは確かにメンバー内では劣りはする。しかし、そもそも盛岡大附属高校が決して強豪校ではない。そんな中でも県駅伝では3年間常に区間上位の走りをし、個人でも東北予選まで駒を進めた。周りも一定以上のレベルの中で競ってきた強豪校出身の選手とは大前提として環境が違いすぎる。そういう意味では彼が最も未知数な選手と言えるだろう。今大会の箱根駅伝10区において区間記録まで僅かに迫った清野選手も、高校時代1500mでの実績は十二分にあったとは言え入学時の5000mの持ちタイムが15分台だったというのは以前のブログでも紹介した通りだ。
※清野選手の成長についてはこちらからどうぞ。
失礼、話を戻そう。そんな彼でもたった3年で数々の名ランナーを超える走りをすることができた。要するに、入学時のタイムが全てを決めるということではない。決して恵まれた環境ではなくともひたむきに走って来た彼だからこそ、シンデレラストーリーの主人公になれると私は思う。
最後に
冒頭でもお話しした通り、今年の1年生は既に高い完成度の選手が多く全員が強い個性を持っており、非常に楽しみな代であるように感じた。まさに"少数精鋭"の表現が相応しい。今大会を最後に旅立っていった4年生の抜けた穴は宮下選手を筆頭にとてつもなく大きい。だが、残る選手たちも大きな力を持っている上、紹介した9名の素晴らしい才能が入部してくる。選手の入れ替わりは学生スポーツの常。短い4年間の成長を楽しむのが醍醐味だと思う。また1年後、彼らがどんな1年を送ったか、成長を振り返ることを楽しみにしたい。今回はこの辺で、有難うございました。