#3箱根駅伝復路

引き続き、第98回箱根駅伝復路の感想を書きます。往路をご覧になっていない方はぜひこちらからよろしくお願い致します。

 

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復路のメンバーは以下の通りです。

6区 九嶋恵舜 選手

7区 梅崎 蓮 選手

8区蝦夷森章太 選手

9区 柏 優吾 選手→前田義弘 選手

10区 吉田 周  選手→清野太雅 選手

 

6区 区間10位 59分19秒

前回6区を走った九嶋選手が2年目の山下りを担当。山下りの"先代"とは実家がご近所で出身高校も同じ、その姿を追いかけて入学した大学では跡を継いで1年生ながら6区に抜擢されましたが、6区では絶望的な1時間台を出し区間14位と低迷した前回大会。転じて今年は大ブレークの1年となりました。10月の出雲駅伝では僅か2秒差で区間賞を逃すも区間2位タイ、11月の全日本大学駅伝では他校のエースも集う中区間8位と大健闘、箱根で往路を走っても不思議ではない選手に成長しました。そして迎えた箱根駅伝。私個人としては予想よりも良い結果でしたが、本人は悔しかったかもしれません。かなりの前傾姿勢でダイナミックに走る九嶋選手は、とても山下りに向いているフォームとは思えず、どちらかと言うと上りの方が強そうに見えます。やはり上りの方が強いのか、上りのある序盤は良いペースで通過します。ところが、本格的に下りが始まるとかなり後ろと差を詰められてしまいます。ヒヤヒヤしましたが何とか耐え、最後は平地勝負へ。平地勝負になると強いですね。ラスト3kmのタイムは区間2番目、前の大学とは1分5秒差で7区へ襷を繋ぎます。今年は路面凍結のためか全体的にタイムが悪く、前回と同様のコンディションであれば58分台も狙えたかもしれませんし、来年は間違いなく58分台は出るでしょう。しかし私としては、これだけ走れる選手を合わない6区で使うのは勿体ないかなと思ってしまします。何れにしても、憧れの先輩に導かれるかのような陸上人生を送って来た九嶋選手が、今年はそんな偉大な先輩を超える足掛かりとなれるのか、とても楽しみです。

 

7区 区間11位 1時間4分13秒

7区8区を重要視する我らが将、酒井俊幸監督ですが、実はルーキーを7区に起用するのは極めて異例で、1年生ながら7区を任されるのは実に8年ぶりのこと。8年前と言えば最後に優勝した年ですね。いやあ懐かしい...。この世代の目玉は当然石田選手ですが、今回走った梅崎選手も陰に隠れたかなりの実力者。高校3年時は全国高校駅伝で花の1区を走り、並み居る強敵を抑えて見事区間11位。凄いの?と思われるかもしれませんが47校いるわけですから素晴らしい順位でしょう。他にも県を含めた地区の駅伝でもほとんど区間賞か2位と、とにかくロードに強いです。しかしながらこの箱根では序盤随分とゆっくり入ってしまいました。襷を受けた段階で14秒あった東海に置き去られ、23秒あった法政にも追い付かれてしまい、しばらくの間並走が続きます。1つ問題だったのは、並走していた法政の選手もさほど良いペースではなかったということ。シードを狙う11位早稲田の鈴木選手は非常に優れたランナーであり、ちんたらしていると抜かれかねません。私は1人で心配していましたが杞憂でした。19kmを過ぎた頃、約15kmに及んだ並走を制しぐんぐんと前に迫る梅崎選手。並走していた法政との差を12秒に開き、落ちてきた國學院を拾い順位を維持して4年生の待つ平塚へ。今回は果たして距離不安があったのか、はたまた終盤失速しないために序盤控えたのか真相は分かりませんが、事実として、彼は非常に頭の良い選手です。爆発力はなくともレースメイクやセルフコントロール能力に長けており、機を伺って我慢のできる選手。ゴールデンルーキーの良きライバルとして、今後の鉄紺を象徴する選手になってくれたらとても喜ばしいことです。

 

8区 区間4位 1時間5分04秒

非凡なルーキーから襷を受け取り走り始めたのは4年生の蝦夷森選手。2大会前の箱根駅伝以降、駅伝での出走がなかった寮長です。私だけでなく、きっと全東洋ファンが待ち望んでいたこの人の復活。出走確定した時は嬉しさもありましたが、ずっとメンバーに選ばれず目を見張るタイムも出ずで本当に大丈夫かなと不安がありました。本当は誰かに代わる予定だったものが、アクシデントにより走らざるを得ない状況だったのではないかと嫌でも考えてしまします。しかし、そんな不安を嘲笑うかのような復活劇でした。茅ヶ崎では國學院に並ばれ、まずまずの通過順位でしたが、10km過ぎには國學院を置き去り、遊行寺では前を行く東海との差を30秒以上縮める最高の走りです。中継所では東海に僅か1秒差まで迫る区間4位の大活躍。戸塚で待つ副キャプテンへ、これ以上ない置き土産です。走り終わった際には「頼んだぞ!」と檄を飛ばしましたが、この大会に対してだけでなく次期キャプテンに対して"チームを頼んだ"そんな風にも聞こえる深いものでした。高校時代全国大会に出場した選手はおらず、一見すると"谷間世代"であったこの代を学年リーダーとして引っ張ってきたのが蝦夷森選手。自身は地区大会決勝で転び全国大会出場を逃すという悔しい過去も持っています。ドラフト1位として入部するも1年時は出場機会はなく、別の超無名入学の1年生が8区で素晴らしい走りをしました。2年時は宮下選手が出雲駅伝でデビュー、自身は箱根駅伝でようやくチャンスを掴み取りました。未だなお記憶に新しい名場面「今西さーん」が生まれたレースですね。チームのムードメーカーの彼だからこそ、あれが単なる声掛け以上に我々ファンの心を揺さぶったのかもしれません。1年時に素晴らしい走りをした選手というのは、将来を嘱望されながら大怪我もあり最後まで行方不明状態でした。もちろん、誰にとっても良いことではありませんでしたが、チームのエースになってもおかしくなかった選手の同期が、代わりにその人の唯一の出場となった"箱根駅伝8区"を走るなんて素敵じゃないですか。まさしく酸いも甘いも味わった4年間だったと思いますが、次はニューイヤー駅伝多くの名場面を生み出す日を心待ちにしています。4年間有難うございました。

 

9区 区間5位 1時間8分59秒

「今西さーん」を彷彿とさせる通称"蝦夷森ポーズ"で4年生を迎えた前田選手。3度目の箱根路を迎える次期キャプテンは、先輩の声に背中を押されたかのように前半からハイペースで飛ばしていきます。7.7kmの権太坂では区間2位の通過タイム、順位を2つ上げました。区間2位の入りは間違いなく速いのですが、前田選手は元々前半から速く入ってしまう選手ではあり、前半突っ込んで終盤失速してしまうのがいつものパターンでした。駅伝で外すことはない縁の下の力持ちも今年はラストイヤー。いつも通りで終わらずに区間3位以内に粘り、何とか殻を破って欲しいと強く思っていました。結果から言うと区間5位まで落ちてしまいましたが、それでもタイムは1時間8分台と、例年なら区間2位、3位の好タイム。区間賞が区間新、区間2位がほぼ区間新であったことを踏まえると相手が悪すぎましたね。余談ですが、前田選手も牛久出身です。3区を走った佐藤選手とは小学校から一緒だとか。話は戻って、前田選手は責任感が強くとても真面目なのでしょう。テレビ番組の箱根特番でもそういった場面が見受けられました。恐らく序盤から突っ込んで入ってしまうのはそういった面が影響しているのだと思います。彼も3年目で、前述の通りこれまでの全駅伝を走っているわけですから自身の特徴もとっくに把握しているはずですから。シューズの影響もあり各大学が当たり前のように怪我人を抱え、ベストメンバーを組むことが難しくなっている昨今、全駅伝に出場する主力というのはタイム以上に貴重な存在です。少し便利屋的な使われ方も多く可哀想ではありますが、責任感が強く真面目で走りは少し不器用なキャプテンが4年目にして殻を破り飛躍の1年となれば、鉄紺が優勝戦線に再び加わることもできるはずです。

 

10区 区間2位 1時間8分50秒

2年目の10区を任されたのは前回、ダイナミックな腕振りで注目を浴びた清野選手。昨年の記録会にはほとんど出走せず、11月12月以降一気に調子を上げてきたものと思われます。清野選手と言えば、前回は青山学院中倉選手と3位争いの死闘を繰り広げ、目標の3位を確保したのにも拘わらず、ゴール後悔しさで涙を流した選手。今年は長らく國學院と並走することになりました。鶴見中継所では1分半あった駒澤との差を約6kmで30秒以上縮める異常なペース。16.5kmの定点では区間3位の個人記録と、本当に1年何をしていたんだとツッコみたくなるような成長曲線でした。如何せんテレビに映らなかったものでこれ以上特に書くことがありませんが、最終的には駒澤との差を1分半縮め2秒差の4位となりました。タイムはほとんど区間新の区間2位と昨年から2分以上縮める走り。本当に1年何をしていたんだとツッコみたくなるような成長曲線ですね。これほどの激走をしながら、ゴール後には今年も涙を流したようです。気持ちのアツさがたまりませんねえ。清野選手は高校時代には1500mで全国大会にも出場されたようですが、入学時の5000mのタイムは15分25秒と箱根駅伝出場を争うチームほどのタイムでした。それが2年で箱根駅伝を走るほどの力をつけ、翌年には前年の記録を2分以上縮めてしまったわけですから恐ろしいです。私個人としては、来年は10区で彼が優勝のゴールテープを切るところを観たいなと思っています。特異な成長曲線を示すチームプレイヤーが今年1年どれほど力をつけるのか、想像も及ばない世界へ連れて行って欲しいですね。

 

復路まとめ

復路順位は優勝した青山学院に次いで2位と、復路の弱さで長年苦労していたチームとしては非常に喜ばしい結果だと思います。九嶋選手の1年の成長が感じられた6区から始まり、梅崎選手のレースメイクに度肝を抜かれた7区、8区蝦夷森選手の逞しい姿に涙し、9区前田選手は先輩の檄に応えるかのような良い意味で"らしくない"走り、そして10区の清野選手には今後応援する更なる楽しみをもらいました。往路が終わった段階では「今後は暗黒時代か」と諦めかけていましたが、監督コーチ、選手を始め関係者の方々に心から感謝申し上げます。覚えている方がいらっしゃるか分かりませんが、最後に4区を走った木本選手の起用について考察をします。石田選手の起用を見送った経緯につきましてはレース後、「キロ3分ならば走れたが彼にはもっと高いレベルを要求している」との趣旨のコメントがありましたので、出走回避は早い段階で決まっていたものと思います。また、9区を出走予定であった柏選手に関しましては、12月20日のオンライン会見で宮下選手、前田選手がともに調子の良い選手として名前を挙げていましたので、直前でアクシデントがあったのではないかと一旦考えることにします。同日の会見で酒井監督は「前回往路2位だった選手が4人残るため、思い切った布陣で往路を獲りに行く」と発言されていました。また4区のレース後、木本選手に関し①調子が良かった②上りに強い③展開が誤算だった、との見解を示されました。よって、既に会見の段階で4区に木本選手を配置することは決めていたのではないかと思います。しかしこの考察ですと、走った10人に加え柏選手が出走予定だったということになります。そこで考えられる可能性が3つあります。1つ目は『蝦夷森選手が11番目の選手であり、8区には前田選手が入る予定だった』2つ目は『清野選手が11番目の選手であり、前田選手が前回同様3区を走り、10区に当日変更で佐藤選手が入る予定だった』3つ目は『実は柏選手が会見より前に起用できないことが判明しており、予定通りのオーダーだった』以上の3つです。私としては、1つ目という結論を出したいと思います。正直に言うと、私はこれは酒井監督の采配ミスだと思っています。なぜなら、実績のない木本選手を準エース区間に起用するのは荷が重く、確実性に乏しいからです。しかし恐らくですが、前田選手を往路に起用すると復路で3位以内を保つ自信がなかったのではないでしょうか。5区には全幅の信頼を置く宮下選手が控え、本人も区間記録を更新する気でいるため、木本選手が62分30秒~63分で耐える計算ならば、5区でひっくり返せると考えていたのだと思います。2つ目は、区間2位という結果からすると清野選手が走らなかったことは考えにくいと思います。3つ目は、柏選手が出られないのに調子が良いと名前を挙げるのはもはやただの虐めでしょう(笑)よって、1つ目の可能性をこのブログでの結論として終わりたいと思います。長すぎる、2つに分けて良かったですね...。有難うございました。