#8 箱根駅伝2023 区間エントリー雑感

年の瀬あるが、そんなものは関係ない。29日に発表された区間エントリーに対する感想を記していこうと思う。書くか書かないか考えていたらこんなギリギリになってしまった。以下がエントリーである。

1区:児玉 悠輔 2区:石田 洸介 3区:小林 亮太

4区:柏 優吾 5区:前田 義弘 6区:西村 真周

7区:熊崎 貴哉 8区:網本 圭悟 9区:九嶋 恵舜

10区:清野 太雅

1区2区6区10区に関しては希望通りのためしっかりは触れないこととする。それではまず3区。3区は当日変更濃厚だろうか。私が3区に激推ししていた熊崎が7区に起用されたことからも梅崎ではないかと考えている。恐らく上りは得意ではないのだろう。上りが得意ならば3区よりも4区向きの選手であるし、熊崎は3区を走って然るべき能力の選手だからである。展望では1区はハイペースと書いたが、中央は溜池をエントリーしてきた。よって吉居は2区か3区と思われ、そうなるとそれほどペースは流れないだろう。タイプ的には現状前も後ろも誰もいないような単独走になることは歓迎できないため、1区2区はなんとか食らいついて欲しいところである。4区の柏は少々拍子抜けだが、往路で使うのならここだろう。柏の長所は淡々とリズムを刻んで走れるところ。準エース区間とあり実力者が勢揃いの4区だが、マラソンランナーがここに控えてるのは安心感がある。5区は前田だが、ここからあまりチーム状態は良くないのだろうと感じた。なぜなら、復路の長距離区間である9区に選手を"とっておけなかった"と推測できるからである。松山が出られない以上、好順位を狙うなら今大会は来年に向けて選手を試す方が得策だろう。特殊区間なら尚更。加えて、元々上りに適性のある選手は少なくなかったはずなのに、蓋を開ければ4年の前田がここを担っている。前田が出られないか、控えの佐藤が出られないかという状況だと考えている。5区を替えるとすれば私の希望通り佐藤だろう。7区は往路で見たかったためかなりショックはあるが熊崎が走りそうだ。スピードがあり、私の展望のブログに書いたように、攻める走りが期待できるのは間違いがなく、非常に楽しみである。来年こそ往路を走るために、区間賞すら狙ってステップアップして欲しい。8区の網本は変更ではないだろうか。候補としては木本か荒生か。網本が走れるなら大歓迎だが、ここまでさしたる活躍もなく、本人の希望である9区とは求められる適性も違うことから望みは薄いのではないだろうか。9区の九嶋が最大の不可解ポイントだろう。ここは素直に直前のアクシデントがあったと思わざるを得ない。九嶋は平地に使うプランがあったとしても、九嶋が9区を走るなら4区に回して柏を9区で全く問題はない。九嶋の走り方は上りは向きそうな上、終盤の9区よりかは順位変動に期待ができる往路の方が良いだろう。そうは言え、過去には大澤(非実業団)の起用もあり、絶対ないとは言えないが、当日変更があるなら村上と予想する。北海道マラソンではペーサーこそ居たものの、30kmまで全く崩れなかったのは村上だ。長距離区間は向いており、全日本の走りも堅実で期待を持てるものだった。

以上がエントリーを受けての私の感想である。楽しみもありつつ不安もありつつ、という感情ではあるが、始まればあっという間に終わってしまうのが箱根駅伝。しっかりと楽しみたいと思う。当日変更がどうなったとしても、出た選手を応援するのみ。それでは今回はこの辺で。有難うございました。

#7 箱根駅伝2023展望

さて、本日12月10日第99回箱根駅伝のエントリーメンバーが発表された。東洋大学のエントリーは以下の通りである。

(4年)荒生 実慧 柏 優吾 木本 大地

        児玉 悠輔 清野 太雅 前田 義弘

(3年)九嶋 恵舜 熊崎 貴哉 佐藤 真優 

       十文字 優一 村上 太一

(2年)石田 洸介 梅崎 蓮 小林 亮太

(1年)網本 佳悟 西村 真周

 

今回は各区間の希望を記したいと思う。又、敬称は省略させていただく。それでは始めていこう。

1区:児玉悠輔

今回の1区の注目はやはり吉居大(中央)。今年の箱根駅伝では、長く止まった時計の針を動かす区間記録を樹立し、全日本大学駅伝では前日まで体調不良ながら6区の区間記録を塗り替えるなど、"確変"は新シーズンに入っても続いている様子。遂に実現が期待されるのがオリンピアン三浦(順天堂)との直接対決。今年も序盤からハイペースが想定され、力の足りない選手は容赦なく振り落とされるだろう。必ずしも濃いメンバーではなくとも濃い展開が予想される今回の1区、児玉は松山のいない現メンバーでは最も強い選手と言える。出雲駅伝では吉居について行き早々に失速、全日本では自身初の1区以外の区間(3区)を担うも目立つ働きはできなかった。今季の児玉は調子が良く自信満々な発言が多く見受けられる。だが駅伝ではそれが気負いとなり、空回ってしまっている。今回はエース不在のため最上級生としての責任感もきっとあり、「2区以降に楽をさせたい」という気持ちからオーバーペースで入ってしまう懸念はあるが、最後は走り慣れた1区で、高まった走力に加えて持ち前の狡猾さを存分に発揮して欲しい。区間賞を獲りに行く走りではなく、あわよくば区間賞の走り。その走りこそが最もチームの助けとなる。

2区:石田 洸介

今年の2区は前回と比べると多少手薄になるだろうか。"学生長距離界のエース"田澤は3区に回るとされており、史上最強留学生との呼び声も高いヴィンセントもまた、自身が区間記録を持つ3区への再挑戦が噂されるからだ。とは言え腐っても華の2区。彼ら2人が他区間にエントリーされるとしても、今や学生長距離界で2番目に強い日本人の近藤(青山学院)、前回3区区間賞の丹所(東京国際)、黄金世代とも言われる現3年生世代にあって1年時に断トツの活躍をした石原(東海)、昨年度、世代No.1の石田や鶴川を差し置いて一躍名を挙げた平林(國學院)、そして歴戦の留学生たちと、決して簡単ではない。さて、過去2年2区を走りどちらも区間5番以内日本人2位と好走した絶対的エースが不在の今回。正直オーダーとしては梅崎だと思うが、ここは石田を期待したい。約15年前5区で頭角を現し、長らくエース力で勝負してきた鉄紺、伝統的に相性の良いこの2区間が未知数の状況は2017年を思い出す。当時もエース5区共に不在の中、酒井監督に公の場で「まだエースではない」とまで言われてしまった当時2年の山本修二(旭化成)が2区を担い、翌年は3区区間賞、翌々年には2区に再挑戦し区間4位日本人2位と文句なしの成績を残し、名実共にエースとして成長した。今春は自転車事故の怪我で出遅れ、秋は出雲全日本共に主要区間を走るも見せ場なく終わってしまった石田。陸上部創部以来の原石とも言える逸材の育成に慎重になるのは理解できるが、あまりに過保護な印象を受ける。燦然と輝く宝石になるには、指揮官のかつてのような厳しさも必要と思う。

3区:熊崎 貴哉

駅伝に限らず高速化が顕著な近年の長距離界。下り基調の3区には高速化の波に鍛え上げられたスピード自慢が集結する。東洋大はこのスピード駅伝に対応しきれず近年は不振に喘いでいるが、大学駅伝未出場の今季急成長を遂げた大器が救世主になるかもしれない。今季は全日本大学駅伝予選会2組を走り、日本人1位の好走で予選突破に大きく関与。出雲全日本共に走ることは叶わなかったが、全日本大学駅伝の直後に行われた記録会では10000m28分36秒36とチーム内最速のタイムを記録。なぜ全日本で走れなかったのか不思議なほどの力の持ち主である。エース不在の今季、中間層としてはかなり層の厚い今年の4年生が抜ける来季と、チームとして簡単ではない課題が残るが、出雲全日本と苦しんだゲームチェンジャーとしての働きができれば一気に事情が好転するだろう。未知に期待するのは、人間の性ではないだろうか。

4区:梅崎 蓮

遡ること4大会前、当時3年の東洋大・相澤晃(旭化成)を抜擢し区間新記録、往路優勝を果たした91回大会を契機として、一層準エース区間としての認識が強まった4区。一時期と比べると落ち着いた感はあるが、それでも各校自慢の選手を起用してくるものである。今季の梅崎は関東インカレで2位、全日本大学駅伝で組3番、出雲は間に合わなかったが全日本ではエース区間の7区を走り区間7位と上々の成績。勝ち切れない点や攻めの走りができない点が若干の短所と見受けられるが、秘めたる能力は相当の物。長い距離に適性があり、本人も過去に発言している様に復路の方が適していると思うが、今季の復路が充実している点も含めて往路を経験させるのは良いことでしかないだろう。コース適性としては石田が適任であるが、酒井監督の梅崎への評価は時期を経るごとに高まっており、往路抜擢も不思議ではない。前述の様な短所のため現状は単独走よりも集団走の方が活きるタイプと見ており、今回の1人ずつ選手を拾って行けそうな展開は好材料。一点、どこかで「上りは強くさない」という情報を得た記憶があるのが気になるところではある...(いくら調べても出てこない)。往路への挑戦でメンタル的な殻を破り、松山石田に並ぶネームバリューを得て欲しい。

5区:佐藤 真優

3年連続山上りを担った宮下隼人(コニカミノルタ)が卒業し、未知となった今回の5区。特別上りが強い選手は今季のチームには見当たらず、タイムを稼ぐことは期待できない。そんな中、言わばこの"潰れ役"を期待したいのが前回3区を走った佐藤。今季は関東インカレ10000mで入賞したものの出雲は珍しく粘れず、全日本は出走なし本来の姿を見せられているとは言えない。元々、酒井監督には1年時から松山と同じくらい期待されていた当選手。「松山の不在を感じさせない走りを」とその信頼は未だ揺るがないようで、主要区間を担うのはほぼ確実だろう。本人は自身の長所として『コース条件を選ばないこと』と『粘り強さ』を挙げており、正にオールラウンダー。1年時からコンスタントに出場しており当然替えの利かない主力の1人ではあるが、松山と同等の期待を背負う程の活躍ができているかと問われると疑問符がつく。高校3年時の関東高校駅伝都大路花の1区を当時2年生ながら区間賞に輝いた白鳥(駒澤)に勝ち切った実績からも、"耐える起用"で終わる選手でないのは明々白々。次期主将候補筆頭として、当初の期待通りエースを追い越さんばかりの覚醒を願って止まない。

6区:西村 真周

山下りのスペシャリスト今西駿介(SGH)の後任として過去2年この区間を走っている九嶋が今回も妥当だとは思うが、個人的には西村を期待したい。本人の希望は6区であり、エントリーメンバーからも西村か九嶋かの2択と推測される。今季はここまで1年生の出場がない駅伝シーズンとなっているが、これは2015年まで遡る。駅伝シーズンは結果こそ出ていないものの、今年の上級生はなかなかに力のある面々が揃っており、決して1年生のレベルが落ちるということではない。しかし、エース松山が最終学年を迎える来年を見据えた時、中間層として抜群の信頼感を誇る4年生が卒業するため、九嶋は平地で使いたいだろう。そういった諸々の事情を考慮すると、仮に6区で西村が失敗してもシード権逸脱にまで発展するとは考えにくいため、全く力がなければ問題だが、そうでないならば1年生を起用するメリットは大いにあると考えている。思えば九嶋も1年時に実績のないまま6区に起用されて今がある。ドラフト1位の吉村が退部してしまい、入学直後6月の全日本予選を走るなど最も期待されていた緒方がエントリーを回避するなどあまり明るい情報のない1年生だが、元々は学校史上トップクラスの好スカウト。最終戦で1年生唯一の3大駅伝出走を果たし、この学年が黄金時代を築く礎となれるだろうか。

7区:九嶋 恵舜

非常に走りやすく選手を選ばない7区は、そのコース柄1、2年生の駅伝デビューに使いやすい反面、優勝候補はここで優勝を確実にするために、あるいは反対に逆転への一手として戦略的な意図を持って選手を置くこともしばしば。山下りで勢いが付くことは多いが、ギャンブル色の強い特殊区間に比べて10区間中最もシンプルなこの区間は実力が如実に現れ、それもまた勢いに直結する。私はここまでで6位〜9位と想定しており、シード圏外まで含めまだまだ順位変動の可能性は高いと見ている。そのため例年通りの堅実に走れる選手よりかは、2大会前に西山和弥(トヨタ自動車)を配置した背景の様な攻められる選手を期待したい。今回のエントリーで追う走りができるのは石田と九嶋の2名と考えており、九嶋は故障明けの全日本も1人気を吐いていた。一昨年からずっと懸念している箱根の距離への対応は未だ怪しいが、6区を2年走っているのだから7区なら問題ないだろう。入学時こそ話題性に欠けたが、蓋を開ければ学年で1番駅伝を走っている九嶋。先輩そして憧れの今西の様な影の立役者となる素質は充分備えているだろう。目立たないながらも多大な貢献をしてきた彼が最も輝く舞台での起用を期待している。

8区 前田 義弘

相手なりに走る高い安定感が評判を呼ぶ主将。箱根駅伝皆勤を目前に、1年時に駆けた8区への再挑戦を期待。本人の希望は昨年走った9区あるいは一昨年走った往路との事だが、個人的には他に適任がいるだろうという見解。しかしこの8区こそ前田のタフさが最も活かされる場所と考えており、スピード区間の3区とスタミナ偏重の9区という異色の経験をしてきた彼だからこそ、8区という区間で還元できるものがあるのではないかと思う。関東インカレハーフでは入賞こそしたもののチーム内最下位となり、全日本予選は出走が叶わず、出雲全日本共に出走こそしたが武器の安定感を発揮することはできなかった。決して描いた通りの4年目ではなかっただろうが、数多くの選手が入部しながら遅咲きの多かったこの学年を1年目から引っ張ってきたキャプテンには、確かに花道を飾る資格がある。

9区 柏 優吾

8月の北海道マラソンにて、初マラソンながらMGC資格を取得した鉄紺の頼れる長距離砲。埼玉県出身ながら高校は愛知の名門豊川高校に越境入学し、3年時には主将まで務めた実力者。ここまで出場した3大駅伝は昨年の出雲駅伝6区、今年の全日本大学駅伝8区のみ。昨年も9区筆頭と期待されていたが調子が上がりきらずに回避した。そんな背景もあり、箱根にかける想いは人一倍強い。彼に関しては言葉は必要ないだろう。あくまでも夏合宿の集大成という位置付けで挑んだ初マラソン2時間11分台で走ってしまう選手が最長区間の9区に合わないわけがない。タイプ的にも復路にピッタリで懸念点があるとすれば状態面か。全日本には間に合ったもののそのレースで捻挫をした疑いがあり、調整は簡単ではないだろう。昨年の悔しい思いは要らない。MGC取得者として格の違いを見せつけ、最初で最後の箱根路を悔いなく駆け抜けて欲しい。

10区 清野 太雅

この清野もまた、柏と同じく北海道マラソンでマラソンデビューを果たした。MGCには1歩届かなかったが2時間12分台で走破し、柏と大差ない長距離適性を示した。しかも40kmを走ったのがこのレースが初めてというのだから驚きである。入学以来あっと驚く強烈なスピードで成長してきた清野。10区には現区間記録保持者である中倉(青山学院)も想定されるが、当ブログで何度も強調してきた驚きの成長力区間賞を獲得してくれるかもしれない。1番底が見えないのは4年生の彼だろう。

 

最後に

今回のエントリーの総括としては、何度も話題に挙げているようにエースの不在がとことん痛い。出雲全日本とゲームチェンジャーの不足が明るみになり、想像以上に松山がキーパーソンであったのだなと外野から見ても感じた。また、出雲駅伝全日本大学駅伝で1年生を1人も起用できなかったのも痛い。主力には4年生が多く、来年以降立て直しが必要になる役割も多い。それで結果が出ているなら問題はないが、状況はあまり芳しくない。今回の箱根では来年度に向けて上積みがあると良いなと思う。しかし何よりも望むのは選手たちが怪我なく後悔なく走り終えること。来年の正月もテレビの前でしっかりと見届けたい。それでは今回はこの辺で、有難うございました。

#6 臙脂の名門はなぜ凋落したのか

皆さんは、大学駅伝における『名門』を問われたらどこと答えるだろうか。大会記録を更新し続ける青山学院大学だろうか。実業団に行っても活躍する選手が後を絶たない駒澤大学だろうか。それとも、最多優勝14回、史上唯一の6連覇を成し遂げた中央大学であろうか。どれも正しく、間違いなく名門ではあるのだが、青山学院や駒澤を語る前に忘れてはいけない大学がある。それが、今回のテーマである早稲田だ。2010年度には当時3校目となる学生駅伝三冠を達成したもののそれ以降の優勝はなく、それどころか箱根駅伝では直近5年で2度のシード落ちと、とても優勝候補には挙がらない現状である。これほどまでに急失速してしまった理由はなんだろうか。今回は、私なりにできるところまで考察してみたいと思う。

 

1.指揮官の交代

まず始めに要素の1つとして挙げられるのは指揮官の交代である。2010年度以降優勝がないとは言っても、それ以降も指揮官が交代する2015年度まで箱根では毎年トップ5には入っていた。指揮官の交代理由としては契約満了かつ実業団チームの監督に就任するということであったが、これに関しては三冠後数年結果が出なかったことによる実質的なクビとの説が有力である。その後は、当時の監督の元でコーチを務めていた方が監督に就任している。

2.選手層

"学生"スポーツと言えど、当然ながら多くが大学からスカウトされ入学するのが一般的である。そのため、より能力のある選手をスカウトすることができれば、スタートラインでは優位に立てる。早稲田ではそもそも、この推薦枠が他校より少ない。詳しい数は存じ上げないのだが、例えば今年の東洋と比べると半分程度の人数であったと記憶している。ただ、何も推薦枠の少なさだけがこの結果に繋がっているということもない。なぜなら早稲田の枠は以前から少ないからである。それをかつては一般入学組で補っていた。つまり、推薦枠の数は不利な状況へ追いやる1つの側面ではあるが、絶対的に大きな理由とも言い切れないのだ。

3.陸上長距離界の潮流

最後は少し視点を変えて、大学内部ではなく陸上長距離界全体の流行に着目したい。まず近年の学生駅伝は当ブログで何度もお話ししているように、戦国時代と言われている。青山学院を始めとする新興勢力が力を付け始め、より優勝が難しくなっているからだ。ここのところは育成力の高いチームが増え、有力選手が散らばる傾向にある。また、大学を卒業後は実業団に進むケースが増えた。これがどう影響するかと考えてみると、まず卒業後も実業団で陸上を続けるとなれば学歴はさほど重要ではなくなる。加えて有力校が増えたということは、学生側もより進学先を選べるようになったということだ。即ち、高い練習環境に身を置くことができ、卒業後も実業団での活動を考慮に入れているのであれば、わざわざ難易度の高い早稲田に一般入試で進学する必要性は低い。もっと言えば、どうしても早稲田に進学したい理由がないと考えられる。近年の高校生の中では大学のブランドよりも育成力が重視されているようだ。

4.総括

以上の3点を『監督の交代のタイミングで陸上長距離界に過渡期が訪れ、育成力をはじめとした魅力の部分で他の学校に遅れを取ってしまい、その遅れを取り戻すだけの学校のバックアップ(推薦枠の拡大)がなかった』とまとめ、今回は締めたいと思う。

最後に

今回は近年の早稲田がなぜ苦戦を強いられているのか度々考えていたためまとめてみた。私には悪夢の記憶として忘れもしない2011年(2010年度)の箱根駅伝。歴代最小タイムで早稲田に次ぐ2位に敗れたのが東洋大であった。そんな早稲田が優勝争いどころかシード争いを強いられている現状を他校ファンながら残念に思う。早稲田は先日新監督が就任し、昨年度まで監督を務めていた方もコーチに復帰、新体制となることが発表された。もちろん優勝して欲しくはないのだが、あの頃の駅伝に惹かれた身としてはいつの日か早稲田が強さを取り戻し、早稲田東洋駒澤が3強として優勝戦線を賑わせる時代が戻ってくることを切に願っている。今回はこの辺で、有難うございました。

#5来たる2022シーズン!~鉄紺を継ぐ者たち~

さて、箱根駅伝が終わりどこも4年生が退寮し、新体制へと移行し始めたこの3月。別れがあれば出会いもあるということで、新1年生が入寮する時期でもある。今回は、そんな次世代を担う鉄紺戦士たちをまとめてみたい。ところで、今回から文末の口調を変えてみることにする。「です。ます。」口調では私自身書いていて面倒であるし、読んでいても読みづらいと思ったためである。今回は、東洋大学長距離部門公認ホームページ『輝け鉄紺!』に記載されている情報を基に私個人の主観を加えて紹介する、という形を取らせていただく。今年は過去最高クラスの好スカウトで、とてもワクワクしている。それではやっていこう。

 

1.吉村 聡介 (豊川高校)

5000m 13分53秒90

10kmロード 28分56秒

19愛知県高校駅伝2区3位

20愛知県高校駅伝1区2位

20全国高校駅伝4区45位

21愛知県高校総体5000m1位

21東海高校総体5000m2位

21インターハイ5000m出場

21愛知県高校駅伝1区1位

21全国高校駅伝1区46位

1人目は愛知の名門豊川高校のエース、吉村選手。東洋大学新4年生の柏選手の後輩に当たる。5000m13分台は近年希少価値が薄れてきているとはいえ強さの証。21年の愛知県高校駅伝1区ではスタートから先頭へ駆け、堂々の区間新記録を樹立。前年スローペースで流れ中継所の手前でかわされた反省から、序盤から押し切ることに決めたそう。自分のペースで最後まで行ききるというのは実力あってのもの。実績、能力共に疑いの余地はなく、即戦力としての活躍すら期待される大物ではあるが、全国大会で軒並み失敗している点が気になる。単に調子を合わせられなかっただけなのか、全国の大舞台でのプレッシャーに潰されてしまったのか気になるところではあるが、そこは我々が考えても致し方ない。兎にも角にも、高校生で10kmロードを28分台で走っているという点は非常に頼もしい。いずれは鉄紺の中心を担ってくれるであろう彼が、全国大会の呪縛からどう解き放たれるのか。そういった点も楽しみである。

 

2.緒方 澪那斗(市立船橋)

・5000m 13分54秒45

・10000m 28分36秒67

19千葉高校駅伝4区1位

19関東高校駅伝3区5位

20千葉県高校駅伝3区1位

20関東高校駅伝1区7位

21千葉県高校総体5000m1位

21南関東高校総体5000m1位

21インターハイ5000m10位

千葉県高校駅伝1区2位

関東高校駅伝1区1位

2人目は1年生の頃からチームの主力に名を連ねていながら、高校3年間で駅伝の全国大会を経験していないという異色の経歴を持つ緒方選手。市立船橋は渡辺康之さんの母校でもあるように、数多くのタレントを排出してきた名門中の名門だが、市立船橋→東洋の推薦入学はもしかすると彼が初めてというほどに珍しい。何と言っても特筆すべきは、高校生にして大学生の上位層と同等の10000m28分30秒台の自己ベストを持っているところだろう。6月に全日本大学駅伝の予選会を控える東洋大学にとっては正しく即戦力と言っても差し支えないはずである。また、速い自己ベストを持つ彼の加入は上級生への刺激になるはずであり、チームのトラックのタイムにも変化があれば尚嬉しい。余談だが、緒方選手は21年の東洋大学の夏合宿に参加している画像が当時から界隈で注目されていたため、ほぼ入学確実と思われていたが実現して非常に安堵している。"全国を知らない全国区の選手"が、大学の舞台でどのように羽ばたくのか、これからの4年間に目が離せない。

 

3.西村 真周(自由ヶ丘)

・5000m 13分55秒92

・10kmロード 29分33秒

・19福岡県高校駅伝7区2位

・19全国高校駅伝7区2位

・20福岡県高校駅伝3区3位

・21福岡県高校総体5000m1位

・21北九州高校総体5000m1位

・21インターハイ5000m13位

・21福岡県高校駅伝1区2位

・21全九州高校駅伝1区6位

・21全国高校駅伝1区16位

3人目は5000m13分台三人衆の最後のひとり、西村選手。福岡といえばやはり大牟田のイメージが強いかもしれないが、この自由ヶ丘都大路にも出場している実力のある高校。西村選手も吉村、緒方両選手と同様に1年時からチームの主力を担い、全国の舞台でも安定した成績を残している。先日の日本クロスカントリーU20男子8kmでも6位入賞を果たし、タフなコースへの適性も示した。記録としては前述2名ほどの派手さはないが、様々な舞台でコンスタントに結果を出せる能力の高さは間違いなく全国屈指であろう。どうやら進学先を選ぶ際、高校の1学年先輩である山本選手の進学した國學院大学東洋大学とで迷った結果東洋を選んだようで、どこが決め手となったのか、いつか雑誌のインタビューか何かで喋ってくれることを密かに期待している。彼が卒業する際、東洋大学を選んで良かったと思えるような偉大な選手へと成長することを心から願っている。

4.藤宮 歩(学法石川)

・5000m 14分04秒46

・19福島県高校駅伝5区1位

・19全国高校駅伝5区6位

・21福島県高校総体1500m5位

・21東北高校総体1500m出場

・21福島県高校駅伝7区1位

・21全国高校駅伝4区14位

4人目は東洋大学で偉大な足跡を遺した相澤晃さんをはじめ、松山選手の後輩でもある藤宮選手。私自身1番楽しみなのがこの選手である。経歴を見てお分かりのように、1年時から名門学法石川のメンバーに名を連ね、区間賞の獲得歴もある逸材である。もちろん知ってる人は知っているが、この藤宮選手、実は3000mの全中チャンピオンである。鳴り物入りで入学するも、度重なる怪我に悩まされ遠回りをしながら復活への道程にいる。5000mは20年には14分35秒であったが、昨年12月に14分04秒46を記録。13分台ランナーが非常に増えた昨今にあっても、14分1桁は素晴らしいタイムである。高校時代はエースとしての活躍が期待されるも、最終的には同級生の山口選手(早稲田大学内定)、菅野選手(東京国際大学内定)に"置いて行かれた感"は否めないが、彼の強さは発展途上にあると私は思う。3年時には主将も任され、挫折から復活した"元中学チャンプ"が大学で再び大輪を咲かせることが出来るか。かつて世代を制した彼だからこそ、語れる物語があるはずだ。

 

5.網本 佳悟(松浦)

・5000m 14分12秒37

・10000m 29分22分80

・19長崎県高校駅伝4区1位

・19全九州高校駅伝4区13位

・19全国高校駅伝4区37位

・20長崎県高校駅伝4区2位

・21長崎高校総体5000m2位

・21北九州高校総体5000m8位

・21長崎県高校駅伝1区1位

・21全国高校駅伝1区30位

5人目は3000mで長崎県記録を更新した網本選手。5000mも高校生では上位30位前後には含まれるタイムと推測されるが、九州地区、全国大会では苦労したという印象。松浦高校は部員も僅か18人とかなり少ない中でコツコツと努力を重ねこの自己ベストのため、より高いレベルに身を置き、周りと切磋琢磨できれば大学での更なる飛躍も充分にあり得るだろう。将来はマラソン志望とのことだが、こういった選手が思わぬ伸び方をしたら面白い。

 

6.岸本 遼太郎(高知農業)

・5000m 14分16秒89

・10kmロード 29分21秒

・19高知県高校駅伝4区1位

・19四国高校駅伝3区10位

・19全国高校駅伝1区41位

・20高知県高校駅伝1区1位

・21高知県高校総体5000m1位

・21四国高校総体5000m2位

・21インターハイ5000m出場(棄権)

・21高知県高校駅伝1区2位

・21四国高校駅伝1区3位

・21全国高校駅伝1区14位

6人目は梅崎選手を彷彿とさせるようなロードでの安定感が光る岸本選手。1年時こそ四国駅伝や都大路での失敗があるものの、3年時の個人の5000mの結果は立派であり、都大路では1年時の借りを返すかのような好記録。梅崎選手の入学時のタイムとさほど変わらず、3年時の都大路の順位も近く、後の梅崎選手の活躍を見るに非常に高い期待感を抱いてしまう。突出するタイムを持たずとも、ロード適性の高さによっては出世頭になっても不思議ではないだろう。

 

7.山下 翼(熊本工業)

・5000m 14分20秒16

・10kmロード 30分18秒

・19熊本県高校駅伝5区3位

・20熊本県高校駅伝1区3位

・21熊本市陸上選手権3000m1位

・21熊本県高校総体5000m4位

・21南九州高校総体5000m出場

・21熊本県高校駅伝1区3位

・21全九州高校駅伝3区10位

7人目の山下選手だが、正直この選手は存じ上げていない。5000mのタイムはもちろん悪いタイムではないが、如何せん今年のメンバーはレベルが高いことからもまだ何も想像できないというのが本音である。しかしロードはある程度やれそうな印象を受けるため、スピードを強化できれば面白い存在になり得るだろう。

 

8.稲葉 夢斗(那須拓陽)

・5000m 14分27秒47

・19栃木県高校駅伝2区1位

・19全国高校駅伝7区34位

・20栃木県高校駅伝7区1位

・20関東高校駅伝3区5位

・21栃木県高校総体5000m1位

・21北関東高校総体5000m出場

8人目は多くの強豪大学への進学者が後を絶たない那須拓陽のエース兼主将の稲葉選手。ここまでお読みいただいた方には「あまり強くないのかな」と思われるかもしれないが少しお待ちいただきたい。この選手はある種"特殊"なのである。というのも、3年時の4月頃から左膝に違和感を覚え、21年の地区予選は痛み止めを打ちながら走ったという。検査の結果即座に手術を行い、3年目をほぼ棒に振った形となった。高校に入ってからは強くなるためにストイックな食生活に変え、見る見るうちに実力を確かなものにしていった。ハートの強い選手のようで、2年時の関東駅伝での走りに東洋大学の酒井監督も『レベルの高い選手に食らいつく姿勢や苦しい時も我慢できる粘り強さなどが「東洋にぴったりだ」』とべた褒めの様子。今の"東洋らしさ"を確立したと言っても過言ではない酒井監督自身が言うのだ、特別なものを持っているのは間違いないだろう。本人は箱根駅伝では1区か6区を希望しているとのことだが、この2区間は特に粘り強さが求められる区間であるため、非常に向いていると思う。大学では、こういった気持ちの強い選手が大きな成長を遂げることは非常に多い。また、5000mの自己ベストも2年時のものということで伸びしろは学年で1番ではないだろうか。幸い今年の1年生には世代上位の強い選手が多く入学してくる。負けん気の強い彼には絶好の舞台で"鉄紺を象徴する"ような泥臭い走りを観たいものだ。

 

9.大宮 大虎(盛岡大附)

・5000m 14分33秒43

・19岩手県高校駅伝1区4位

・19東北高校駅伝1区20位

・20岩手高校駅伝1区1位

・20東北高校駅伝1区11位

・21岩手県高校総体5000m2位

・21東北高校総体5000m出場

・21岩手県高校駅伝1区2位

さて、最後の1人となった大宮選手。この選手の5000mのタイムは確かにメンバー内では劣りはする。しかし、そもそも盛岡大附属高校が決して強豪校ではない。そんな中でも県駅伝では3年間常に区間上位の走りをし、個人でも東北予選まで駒を進めた。周りも一定以上のレベルの中で競ってきた強豪校出身の選手とは大前提として環境が違いすぎる。そういう意味では彼が最も未知数な選手と言えるだろう。今大会の箱根駅伝10区において区間記録まで僅かに迫った清野選手も、高校時代1500mでの実績は十二分にあったとは言え入学時の5000mの持ちタイムが15分台だったというのは以前のブログでも紹介した通りだ。

※清野選手の成長についてはこちらからどうぞ。

 

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失礼、話を戻そう。そんな彼でもたった3年で数々の名ランナーを超える走りをすることができた。要するに、入学時のタイムが全てを決めるということではない。決して恵まれた環境ではなくともひたむきに走って来た彼だからこそ、シンデレラストーリーの主人公になれると私は思う。

 

最後に

冒頭でもお話しした通り、今年の1年生は既に高い完成度の選手が多く全員が強い個性を持っており、非常に楽しみな代であるように感じた。まさに"少数精鋭"の表現が相応しい。今大会を最後に旅立っていった4年生の抜けた穴は宮下選手を筆頭にとてつもなく大きい。だが、残る選手たちも大きな力を持っている上、紹介した9名の素晴らしい才能が入部してくる。選手の入れ替わりは学生スポーツの常。短い4年間の成長を楽しむのが醍醐味だと思う。また1年後、彼らがどんな1年を送ったか、成長を振り返ることを楽しみにしたい。今回はこの辺で、有難うございました。

#4駅伝戦国時代!初心者向け2022年度オススメ大学

自分で書いといてこのタイトル、ハードル上がるから嫌です。常に知らない人に幅を利かせていたいものですね。さて、ブログを書いていながら私はさほど詳しくないもので、もしも有識者の方が読んでいらっしゃったら、様々な意見交換をしてみたいです。

詳しくないと保険を掛けながらも、折角の駅伝戦国時代ですから、これはもう駅伝にハマるチャンスじゃないかということで書いていきたいと思います。

 

第5位

青山学院大学

青山学院と言えば、今や押しも押されぬ駅伝の強豪校。今年、厳密に言えば98回大会の箱根駅伝も優勝したばかりの最も安定感のあるチームですね。このチームに関しては説明の必要あるんですかね。部内学生平均タイムでは史上最強、箱根駅伝の最速タイムを更新し続けるチームです。個人的には近年の学生駅伝のトレンドを変えたとさえ思っていますが、これは過大評価でしょうか。とにかく強いチームを応援したいという人にはピッタリだと思います。しかしこのチームに関しては1つ、大学三冠は難しいと私は考えています。青山学院はその選手層の厚さからメンバー争いが熾烈であり、選考レースでピークアウトしてしまい、駅伝の本番で本来の力を出せないというのが頻発しています。近年のレベルの高いレースでは獲り損ねてしまう、それこそ、今年度の出雲全日本2位という結果が物語っているでしょう。箱根は無難に勝つがロマンはない、と言ったところですかね。青山学院は首位を走ると異常にパフォーマンスが上がります。これは箱根初優勝の年からずっとそうです。出雲全日本の比較的短い距離ではあまり関係ありませんが、20kmを超える長い距離では圧巻の走りをする印象です。一応保険として書きますが、勝ち切れないのが厳密に調子の問題かどうかは分かりません。本番に弱いのかもしれませんし、流れが悪かったのかもしれません。あるいは主力の故障による離脱で、単純に力関係で分が悪かった可能性もあります。しかし、事実として勝ち切れない状況は続いていますし、これが常態化すると私は思います。戦国駅伝ですからね。ただ、常に下馬評の頂点に君臨するのは間違いなくこの大学でしょう。

第4位

駒澤大学

平成の常勝軍団でお馴染みの駒澤大学、一時期は暗黒時代なんて言われていましたが、なんなら黄金時代を迎えてしまっていますね。青山学院の新4年生も大学史上最強かもしれませんが、駒澤は何と言っても学生最強、かつ恐らくこちらも大学史上最強ランナー田澤選手が4年目を迎え、最強世代の2年生が上級生となるだけでなく、更には新入生に1500m、3000m、5000mの高校記録を塗り替えてきた怪物、佐藤圭汰選手が加入する夢のような布陣。正直、とにかく羨ましいです。来年の駒澤は何よりも、応援していて楽しいでしょうね。大学駅伝では通常、頼れる柱に中心となれる上級生、新進気鋭のルーキーが揃うチームが理想とされています。駒澤では、田澤選手が最強の柱となり、田澤選手と3本柱を形成する鈴木選手と唐澤選手が中心の上級生に当たります。加えて前述の2名には劣るとは言え、新3年生は粒揃いですし、新2年生にも有力選手がいます。そしてスーパールーキーの佐藤圭汰選手を擁します。ところが完璧とも言えるこの駒澤大学にも、当然不安要素はあります。それは、選手層の薄さです。矛盾するようですが、薄いと言ってもフルメンバーで戦えば10回に7回くらいは勝てると思います。まあここはかなり人によります。私はエース差でかなり駒澤が有利だと思っていますが、重要なのは"フルメンバーで戦えれば"です。勢力図としては駒澤と青山学院が本命という形になりますが、青山学院には上位3人の選手層では勝っている可能性はあるものの、だいたい8、9人目以降の選手層では確実に劣ってきます。シューズの影響もあり主力の離脱が当たり前のこととなっている昨今、フルメンバーを揃えられないのは避けられず、中間層の底上げなしに優勝は狙えないわけです。今大会も柱の1本である鈴木選手が出場こそしたものの力を出し切れませんでした。まさに今回の箱根駅伝こそ、選手層の差で敗れた好例です。全部勝てるかもしれないし全部勝てないかもしれない、しかし確実に上位には食い込んでくる、そんな強さと脆さとロマンのバランスが非常に良いチームだと思います。

第3位

中央大学

今大会台風の目となったのはこの"赤色"でしょうか。箱根駅伝最多優勝数14回を誇る名門ながら88回大会を最後にシード権が遠のき、93回大会には遂に出場が途切れるという、まさに暗黒時代を経験してきた大学です。全日本大学駅伝では9大会ぶりの出場10大会ぶりのシード権獲得を果たし、勢いそのままに箱根駅伝でも実に10大会ぶりのシード権を獲得と歴史的な1年になったことでしょう。箱根出場が叶わなかった93回の予選会では当時1年生主将の舟津選手の涙ながらのスピーチも印象的でした。時は流れ昨年度、スーパールーキー吉居大和選手が仙台育英から加入し、現在は100回大会での優勝を目指しています。今大会は1区吉居選手が区間区間新を獲得し勢いに乗る中央大学。来年度は吉居選手の弟駿恭選手も加入が内定しています。駿恭選手は兄以上とも言われる逸材で、100回大会での優勝も有り得るほど戦力が整ってきました。好きな大学どこ?と聞かれた際、中央と答えると玄人感が漂います。今後はきっとしばらく上位争いに絡むでしょうし、徐々に優勝も狙い始めるこの位置は1番楽しい時期だと思います。やはり優勝を本気で狙うチームでは2位3位では少し物足りなくなりがちですから。ブランド力に加えて実力も兼ね備えた名門なんて、応援し始めるにはこの上ない環境だと思うのです。

 

第2位

國學院大學

今大会最終10区にて"寺田交差点"がTwitterでトレンド入りしましたが、寺田交差点の由来こそ國學院大學出身の寺田選手でした。当時はシード争いをしていたような大学でしたが、今となっては上位常連です。國學院と言えば2大会前の箱根で、大学史上最高の総合3位に入りましたが正直、個人的には今年度の出雲駅伝まで國學院が強いことを受け入れられなかったというか、認めたくありませんでした。2大会前は東洋大学駒澤大学のアクシデントがなければ國學院の3位はなかったと思っていましたので、東洋を抑え優勝候補に挙げられていることが悔しかったのです。私がようやく受け入れられたのは、出雲駅伝でルーキーの平林選手の走りを観たことがきっかけになりました。平林選手は福井の名門美方高校の出身ですが、私は入学時は存じ上げていませんでした。國學院で最も速い持ちタイムで入学したのは別の選手でしたし、全国では目を見張るほどの実績はなく、タイムも特に良かったわけではなかったからです。しかしこの選手が非常にスケールが大きいのです。入学早々4月には10000mで28分38秒を記録。7月にもほぼ同タイムと能力の高さを証明しました。10000mで28分30秒台となると強豪の主力クラスに当たります。駅伝シーズンが始まるとその衝撃は更に強まります。出雲駅伝ではアンカーを務め、序盤からハイペースで突っ込み一時は順位を3位まで上げました。全日本大学駅伝では各大学のエースが集う7区に抜擢、1年生ながら駒澤青山学院の選手に次ぐ区間3位でまとめました。それらを超えて圧巻の走りをしたのが箱根駅伝。復路最長区間の9区を走り、区間記録をも切ろうかというタイムで順位を5つ上げ堂々の区間2位と文句なしの走りでした。既に来年は5区に挑戦するのではないかとの噂も上がっており、今後の活躍が期待されます。個人的には2区で観たいですが、平林選手の凄さは単なるタイムだけでなく序盤からハイペースで最後まで走り切ってしまうスケールの大きさです。彼はそもそもスタートからスピード感がおかしいですから、観てて非常にワクワクします。國學院について書くならとにかく平林選手について掘り下げたかったので他の選手については割愛していますが、まだまだ上位争いのできるメンバーが残っています。監督も素晴らしい人格者です。國學院は近年は3年生をキャプテンに任命し、2年スパンでチームを作る通称2年計画が有名です。今年度もそうですし3位になった時もそうでした。ところが来年度はチームのエースである新4年生の中西大翔選手がキャプテンに就任することが決まっており、2年計画から脱却した國學院が、これから先どんなチームになるのか非常に楽しみです。

第1位

順天堂大学

さて、これまで4校のポイントを私なりに書いてきましたが、来年の目玉は断トツで順天堂です。順天堂しかないです。もう一度言った方が良いですか?はい、順天堂です。順天堂は選手層こそ厚くはないものの、オリンピアン三浦龍司選手を中心に非常にまとまりがあり、何より主力の離脱が他校と比べて圧倒的に少ないため、ベストメンバーで挑みやすいのが1番の強みだと思います。医療系の大学であることも関係しているのでしょうか。三浦選手は類稀なレースセンスと世界とも渡り合える規格外のスパート力でチームに勢いをもたらすことができ、今年度大活躍をした爆発力と安定感のある伊豫田選手は勢いを加速させるのはもちろん、悪い流れを断ち切ることもできます。三浦選手と同い年の石井選手は派手さはありませんが主要区間を上位で走りますし、エースの野村選手は調子に波があるものの能力は各校のエースに比肩します。もう何名か注目選手はいますが、チームの柱になるのはこのあたりのメンバーでしょう。チームの指揮を担う長門駅伝監督は、順天堂の最後の優勝を知る元選手であり、本人も4年間箱根を走った経験があります。その辺もロマンがありますよね。かつて順天堂にはクインテット世代と呼ばれる世代がありました。私が生まれる前の話なので詳しくは存じませんが、彼らは出る駅伝出る駅伝で好成績を収め、大学三冠をも成し遂げたそうです。長門監督は新4年生のこの世代を"令和のクインテット世代"と名付け、大きな期待を寄せています。順天堂は優勝候補かと問われると、本命ではありません。しかし、どの駅伝も満遍なく優勝の可能性があるのは順天堂だと思っています。それほど今年度のチーム状況は良く、チームとしての強さを見せた1年でした。順天堂は箱根で2位でしたが、決してずっと調子良く運んだわけではなく、なんなら1区から大出遅れと想定外もありました。しかし走る人がしっかり走り2位でフィニッシュした強さは本物です。近年の高速化に伴い重要視されているのは圧倒的な個よりも崩れないチーム力です。順天堂こそ、個の力は他校と比べて劣るもののチーム力が著しく高い、現代的なチームだと思います。それは出場する全大学の中でもです。青山学院は個の能力は飛び抜けて高いですが、やはり流れに左右されるところがあり、ちぐはぐな駅伝にもなりがちです。その点、順天堂は本当にチームで戦うなと、主観による部分は大きいですがそう思います。来年度だけに限って言えば、順天堂は最も面白いチームだと思いますよ。

 

最後に

何においてもそうですが、好きなチームというのは気持ちに任せて決まるものだと思います。思い込むのも良くないですし、決して強いチームが正しいということもありません。どのチームにも魅力はあり、自分が1番魅力を感じるのがどこかということに過ぎません。しかし強いチームは取っ掛かりを見つけやすく話題性があります。このブログで少しでもどこかの大学に興味を持ち、それが好きなチームを見つけるきっかけになれば嬉しく思います。ちなみに東洋大学は6位でした...。次は東洋について気が向いたら書くかもしれませんが今回はこんなところで。有難うございました。

 

 

#3箱根駅伝復路

引き続き、第98回箱根駅伝復路の感想を書きます。往路をご覧になっていない方はぜひこちらからよろしくお願い致します。

 

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エントリー

復路のメンバーは以下の通りです。

6区 九嶋恵舜 選手

7区 梅崎 蓮 選手

8区蝦夷森章太 選手

9区 柏 優吾 選手→前田義弘 選手

10区 吉田 周  選手→清野太雅 選手

 

6区 区間10位 59分19秒

前回6区を走った九嶋選手が2年目の山下りを担当。山下りの"先代"とは実家がご近所で出身高校も同じ、その姿を追いかけて入学した大学では跡を継いで1年生ながら6区に抜擢されましたが、6区では絶望的な1時間台を出し区間14位と低迷した前回大会。転じて今年は大ブレークの1年となりました。10月の出雲駅伝では僅か2秒差で区間賞を逃すも区間2位タイ、11月の全日本大学駅伝では他校のエースも集う中区間8位と大健闘、箱根で往路を走っても不思議ではない選手に成長しました。そして迎えた箱根駅伝。私個人としては予想よりも良い結果でしたが、本人は悔しかったかもしれません。かなりの前傾姿勢でダイナミックに走る九嶋選手は、とても山下りに向いているフォームとは思えず、どちらかと言うと上りの方が強そうに見えます。やはり上りの方が強いのか、上りのある序盤は良いペースで通過します。ところが、本格的に下りが始まるとかなり後ろと差を詰められてしまいます。ヒヤヒヤしましたが何とか耐え、最後は平地勝負へ。平地勝負になると強いですね。ラスト3kmのタイムは区間2番目、前の大学とは1分5秒差で7区へ襷を繋ぎます。今年は路面凍結のためか全体的にタイムが悪く、前回と同様のコンディションであれば58分台も狙えたかもしれませんし、来年は間違いなく58分台は出るでしょう。しかし私としては、これだけ走れる選手を合わない6区で使うのは勿体ないかなと思ってしまします。何れにしても、憧れの先輩に導かれるかのような陸上人生を送って来た九嶋選手が、今年はそんな偉大な先輩を超える足掛かりとなれるのか、とても楽しみです。

 

7区 区間11位 1時間4分13秒

7区8区を重要視する我らが将、酒井俊幸監督ですが、実はルーキーを7区に起用するのは極めて異例で、1年生ながら7区を任されるのは実に8年ぶりのこと。8年前と言えば最後に優勝した年ですね。いやあ懐かしい...。この世代の目玉は当然石田選手ですが、今回走った梅崎選手も陰に隠れたかなりの実力者。高校3年時は全国高校駅伝で花の1区を走り、並み居る強敵を抑えて見事区間11位。凄いの?と思われるかもしれませんが47校いるわけですから素晴らしい順位でしょう。他にも県を含めた地区の駅伝でもほとんど区間賞か2位と、とにかくロードに強いです。しかしながらこの箱根では序盤随分とゆっくり入ってしまいました。襷を受けた段階で14秒あった東海に置き去られ、23秒あった法政にも追い付かれてしまい、しばらくの間並走が続きます。1つ問題だったのは、並走していた法政の選手もさほど良いペースではなかったということ。シードを狙う11位早稲田の鈴木選手は非常に優れたランナーであり、ちんたらしていると抜かれかねません。私は1人で心配していましたが杞憂でした。19kmを過ぎた頃、約15kmに及んだ並走を制しぐんぐんと前に迫る梅崎選手。並走していた法政との差を12秒に開き、落ちてきた國學院を拾い順位を維持して4年生の待つ平塚へ。今回は果たして距離不安があったのか、はたまた終盤失速しないために序盤控えたのか真相は分かりませんが、事実として、彼は非常に頭の良い選手です。爆発力はなくともレースメイクやセルフコントロール能力に長けており、機を伺って我慢のできる選手。ゴールデンルーキーの良きライバルとして、今後の鉄紺を象徴する選手になってくれたらとても喜ばしいことです。

 

8区 区間4位 1時間5分04秒

非凡なルーキーから襷を受け取り走り始めたのは4年生の蝦夷森選手。2大会前の箱根駅伝以降、駅伝での出走がなかった寮長です。私だけでなく、きっと全東洋ファンが待ち望んでいたこの人の復活。出走確定した時は嬉しさもありましたが、ずっとメンバーに選ばれず目を見張るタイムも出ずで本当に大丈夫かなと不安がありました。本当は誰かに代わる予定だったものが、アクシデントにより走らざるを得ない状況だったのではないかと嫌でも考えてしまします。しかし、そんな不安を嘲笑うかのような復活劇でした。茅ヶ崎では國學院に並ばれ、まずまずの通過順位でしたが、10km過ぎには國學院を置き去り、遊行寺では前を行く東海との差を30秒以上縮める最高の走りです。中継所では東海に僅か1秒差まで迫る区間4位の大活躍。戸塚で待つ副キャプテンへ、これ以上ない置き土産です。走り終わった際には「頼んだぞ!」と檄を飛ばしましたが、この大会に対してだけでなく次期キャプテンに対して"チームを頼んだ"そんな風にも聞こえる深いものでした。高校時代全国大会に出場した選手はおらず、一見すると"谷間世代"であったこの代を学年リーダーとして引っ張ってきたのが蝦夷森選手。自身は地区大会決勝で転び全国大会出場を逃すという悔しい過去も持っています。ドラフト1位として入部するも1年時は出場機会はなく、別の超無名入学の1年生が8区で素晴らしい走りをしました。2年時は宮下選手が出雲駅伝でデビュー、自身は箱根駅伝でようやくチャンスを掴み取りました。未だなお記憶に新しい名場面「今西さーん」が生まれたレースですね。チームのムードメーカーの彼だからこそ、あれが単なる声掛け以上に我々ファンの心を揺さぶったのかもしれません。1年時に素晴らしい走りをした選手というのは、将来を嘱望されながら大怪我もあり最後まで行方不明状態でした。もちろん、誰にとっても良いことではありませんでしたが、チームのエースになってもおかしくなかった選手の同期が、代わりにその人の唯一の出場となった"箱根駅伝8区"を走るなんて素敵じゃないですか。まさしく酸いも甘いも味わった4年間だったと思いますが、次はニューイヤー駅伝多くの名場面を生み出す日を心待ちにしています。4年間有難うございました。

 

9区 区間5位 1時間8分59秒

「今西さーん」を彷彿とさせる通称"蝦夷森ポーズ"で4年生を迎えた前田選手。3度目の箱根路を迎える次期キャプテンは、先輩の声に背中を押されたかのように前半からハイペースで飛ばしていきます。7.7kmの権太坂では区間2位の通過タイム、順位を2つ上げました。区間2位の入りは間違いなく速いのですが、前田選手は元々前半から速く入ってしまう選手ではあり、前半突っ込んで終盤失速してしまうのがいつものパターンでした。駅伝で外すことはない縁の下の力持ちも今年はラストイヤー。いつも通りで終わらずに区間3位以内に粘り、何とか殻を破って欲しいと強く思っていました。結果から言うと区間5位まで落ちてしまいましたが、それでもタイムは1時間8分台と、例年なら区間2位、3位の好タイム。区間賞が区間新、区間2位がほぼ区間新であったことを踏まえると相手が悪すぎましたね。余談ですが、前田選手も牛久出身です。3区を走った佐藤選手とは小学校から一緒だとか。話は戻って、前田選手は責任感が強くとても真面目なのでしょう。テレビ番組の箱根特番でもそういった場面が見受けられました。恐らく序盤から突っ込んで入ってしまうのはそういった面が影響しているのだと思います。彼も3年目で、前述の通りこれまでの全駅伝を走っているわけですから自身の特徴もとっくに把握しているはずですから。シューズの影響もあり各大学が当たり前のように怪我人を抱え、ベストメンバーを組むことが難しくなっている昨今、全駅伝に出場する主力というのはタイム以上に貴重な存在です。少し便利屋的な使われ方も多く可哀想ではありますが、責任感が強く真面目で走りは少し不器用なキャプテンが4年目にして殻を破り飛躍の1年となれば、鉄紺が優勝戦線に再び加わることもできるはずです。

 

10区 区間2位 1時間8分50秒

2年目の10区を任されたのは前回、ダイナミックな腕振りで注目を浴びた清野選手。昨年の記録会にはほとんど出走せず、11月12月以降一気に調子を上げてきたものと思われます。清野選手と言えば、前回は青山学院中倉選手と3位争いの死闘を繰り広げ、目標の3位を確保したのにも拘わらず、ゴール後悔しさで涙を流した選手。今年は長らく國學院と並走することになりました。鶴見中継所では1分半あった駒澤との差を約6kmで30秒以上縮める異常なペース。16.5kmの定点では区間3位の個人記録と、本当に1年何をしていたんだとツッコみたくなるような成長曲線でした。如何せんテレビに映らなかったものでこれ以上特に書くことがありませんが、最終的には駒澤との差を1分半縮め2秒差の4位となりました。タイムはほとんど区間新の区間2位と昨年から2分以上縮める走り。本当に1年何をしていたんだとツッコみたくなるような成長曲線ですね。これほどの激走をしながら、ゴール後には今年も涙を流したようです。気持ちのアツさがたまりませんねえ。清野選手は高校時代には1500mで全国大会にも出場されたようですが、入学時の5000mのタイムは15分25秒と箱根駅伝出場を争うチームほどのタイムでした。それが2年で箱根駅伝を走るほどの力をつけ、翌年には前年の記録を2分以上縮めてしまったわけですから恐ろしいです。私個人としては、来年は10区で彼が優勝のゴールテープを切るところを観たいなと思っています。特異な成長曲線を示すチームプレイヤーが今年1年どれほど力をつけるのか、想像も及ばない世界へ連れて行って欲しいですね。

 

復路まとめ

復路順位は優勝した青山学院に次いで2位と、復路の弱さで長年苦労していたチームとしては非常に喜ばしい結果だと思います。九嶋選手の1年の成長が感じられた6区から始まり、梅崎選手のレースメイクに度肝を抜かれた7区、8区蝦夷森選手の逞しい姿に涙し、9区前田選手は先輩の檄に応えるかのような良い意味で"らしくない"走り、そして10区の清野選手には今後応援する更なる楽しみをもらいました。往路が終わった段階では「今後は暗黒時代か」と諦めかけていましたが、監督コーチ、選手を始め関係者の方々に心から感謝申し上げます。覚えている方がいらっしゃるか分かりませんが、最後に4区を走った木本選手の起用について考察をします。石田選手の起用を見送った経緯につきましてはレース後、「キロ3分ならば走れたが彼にはもっと高いレベルを要求している」との趣旨のコメントがありましたので、出走回避は早い段階で決まっていたものと思います。また、9区を出走予定であった柏選手に関しましては、12月20日のオンライン会見で宮下選手、前田選手がともに調子の良い選手として名前を挙げていましたので、直前でアクシデントがあったのではないかと一旦考えることにします。同日の会見で酒井監督は「前回往路2位だった選手が4人残るため、思い切った布陣で往路を獲りに行く」と発言されていました。また4区のレース後、木本選手に関し①調子が良かった②上りに強い③展開が誤算だった、との見解を示されました。よって、既に会見の段階で4区に木本選手を配置することは決めていたのではないかと思います。しかしこの考察ですと、走った10人に加え柏選手が出走予定だったということになります。そこで考えられる可能性が3つあります。1つ目は『蝦夷森選手が11番目の選手であり、8区には前田選手が入る予定だった』2つ目は『清野選手が11番目の選手であり、前田選手が前回同様3区を走り、10区に当日変更で佐藤選手が入る予定だった』3つ目は『実は柏選手が会見より前に起用できないことが判明しており、予定通りのオーダーだった』以上の3つです。私としては、1つ目という結論を出したいと思います。正直に言うと、私はこれは酒井監督の采配ミスだと思っています。なぜなら、実績のない木本選手を準エース区間に起用するのは荷が重く、確実性に乏しいからです。しかし恐らくですが、前田選手を往路に起用すると復路で3位以内を保つ自信がなかったのではないでしょうか。5区には全幅の信頼を置く宮下選手が控え、本人も区間記録を更新する気でいるため、木本選手が62分30秒~63分で耐える計算ならば、5区でひっくり返せると考えていたのだと思います。2つ目は、区間2位という結果からすると清野選手が走らなかったことは考えにくいと思います。3つ目は、柏選手が出られないのに調子が良いと名前を挙げるのはもはやただの虐めでしょう(笑)よって、1つ目の可能性をこのブログでの結論として終わりたいと思います。長すぎる、2つに分けて良かったですね...。有難うございました。

#2.箱根駅伝往路

1月2日、3日と日本全国が注目するお正月の風物詩、箱根駅伝が行われました。遅くはなりましたが、2回に分けて感想を書きます。

エントリーメンバー

第98回箱根駅伝に臨む東洋大学のエントリーメンバー(12/29時点)は以下の通りです。

1区 児玉悠輔 選手 6区 九嶋恵舜 選手

2区 松山和希 選手 7区 梅崎蓮  選手

3区 大沼翼  選手 8区 蝦夷森章太選手

4区 木本大地 選手 9区 柏優吾  選手

5区 宮下隼人 選手  10区 吉田周    選手

補欠  清野太雅 選手          石田洸介 選手

         前田義弘 選手             奥山輝  選手

        佐藤真優 選手              村上太一 選手

このうち3区に佐藤選手、9区に前田選手、10区に清野選手が当日変更で入りました。

私は、3区に佐藤選手4区に石田選手、8区に前田選手10区に清野選手との予想をしていましたが、石田選手は距離不安からの欠場となり、ゴールデンルーキーの箱根デビューはお預けとなりました。

 

以下、各区間の感想です。

1区 区間12位 1時間2分07秒

ハイペースが予想された今年の1区、スターターとしての地位を確立しつつある児玉選手ですが、相対的な持ちタイムの悪さとハイペースの経験不足という点から私はかなり不安でした。レースが始まると中央吉居選手が想像以上のハイペースを作っていきます。児玉選手は基本集団後方に位置することが多く、後方というのはハイペースでは前がペースを上げた時に出遅れやすい不利な位置なのです。しかしこの時児玉選手は果敢に前に行き、2番手3番手の位置で食らいついていきますが、吉居選手は遂に5km過ぎから単独走に。何があったか確認できませんでしたが児玉選手は一気に2位集団最後方へ。いつ振り落とされてもおかしくないこの状況。「あー、終わった」私はそう思いました。ところが、さすがは高校時代は世代トップクラスだった選手です。16km過ぎに2位集団もペースが上がり、かなり縦長になった展開でスッと前方へ。彼より力のある創価や早稲田が脱落していく中で17km手前までよく粘りました。トップから遅れること1分27秒後、13番目での襷渡しとなりました。期待としてはもう少し前で渡して欲しかった面もありますが、優勝候補の駒澤大学と48秒差ですので、スターターとしての役割は十二分に果たしてくれたと思います。これまでの全ての駅伝で1区を走ってきたというまさしく1区のスペシャリストに、今年も期待せずにはいられません。

 

2区 区間5位 1時間7分02秒

私が松山選手に対して心配していたのは、出走できるかどうかという点でした。昨年は怪我に苦しみ11月の全日本大学駅伝でも区間13位と、前回大会の鮮烈な箱根デビューのようには上手くいかない1年だったと思います。そのため、調子が上がらず回避という可能性もあるのではと思っていました。が、一方で出走できれば何も心配していませんでした。さあ、無事出走が叶った松山選手ですが、少し遅れてスタートした留学生ランナーに着いていく順調な滑り出し。ところが、権太坂では段々と前に離される様子がカメラに映ります。「あー、終わったか」。またもや私はそう思いましたが、数々の名ランナーが悲鳴を上げてきたラスト3kmに待ち受ける通称"戸塚の壁"で驚異的な追い上げを見せ、区間5位(日本人2位)の大健闘。順位を12位から8位に上げます。レース後のコメントで、どうやらこの一連の走りは作戦通りだった様。昨年は権太坂から仕掛け終盤失速してしまった(それでもラスト3kmのラップタイムは日本人最速のはず)ため、権太坂では抑えて走り残り5kmからペースを上げるプランだったそうです。クレバーな走りを披露した鉄紺の若きエースの活躍が楽しみです。

 

3区 区間8位 1時間2分46秒

1区、2区とレース前の不安点を述べてきた私ですが、この区間では一転して期待で溢れていました。佐藤選手は昨年度の全日本大学駅伝で松山選手と同時にデビューし、当時1年生ながらエース区間の1つを任されるなど、監督からも非常に期待されていたからです。加えて、前回の箱根駅伝は補欠に入りましたが怪我をしてしまい出走できずということで、1年間この時を待っていました。彼は何といってもイケメンです。顔は大事ですよ。男女問わずイケメンは好きですからね。とまあ話がズレましたが、彼は東洋大牛久高校の出身、つまり、附属上がりです。東洋大牛久は全国大会にも出たことのある強豪校ですが、附属から安定的に選手が来てくれるようになると戦力の充実に繋がるため、附属から来た選手が活躍をすることは、表面的なチームの結果以外にも大きな利点があると私は考えています。1回1回のレースが選手の集大成であり、同時に高校生へのアピールの場になるからこそ、附属出身の彼が主要区間を走ることが私はとても嬉しかったのです。結果から言うと、この区間はテレビに映らなかったのでどうであったかは何とも言えません。仕方ないですね、1位争いはとても面白かったですから。HPで見ることができる箱根駅伝の記録速報によると、戸塚で襷を受け取った後、國學院に一瞬で置いていかれますが藤沢は1つ順位を上げて通過。続く茅ヶ崎では1つ順位を下げてしまうものの湘南大橋で一気に順位を2つ上げ、トップから2分21秒差の6位で"牛久の先輩"に後を託します。直後、不運にも嘔吐する場面が映ってしまいましたが、吐くほど絞り出した21.4kmに心から敬意を示します。クールに見えて内に熱い闘志を秘める鉄紺エリートは学年のまとめ役。今後、そんな彼が競技内外で躍動する姿を観ることができたらどんなに嬉しいでしょうか。

 

4区 区間18位 1時間4分17秒

さあ、同様に牛久出身の木本選手でしたが、ほろ苦い駅伝デビューとなりました。10km手前ではまずまずの走り。異変が起きたのは10km過ぎです。駒澤花尾選手に追い付くも、後ろから区間賞受賞者の創価嶋津選手を筆頭に大集団がやってきます。嫌な予感はしていました。木本選手は特別ペースが良かったわけではないものの、20秒以上前にいた花尾選手に10km足らずで追い付いてしまい、後続はレベルの違うスピード感で迫ってきます。木本選手は大学の駅伝や持ちタイムでも特に実績がないのに対して、花尾選手は11月の全日本大学駅伝でもアンカーとしてゴールテープを切るなど、本来は区間賞争いをしてもおかしくない選手です。花尾選手は集団が来ることでリズムを取り戻し着いていくことができますが、木本選手は力通りに走ってしまったが故にかえって不利な立場に置かれてしまったように思います。結果的に順位を6つ下げ、12位での襷渡しとなりました。木本選手を4区に起用したことの考察については、復路まで終わってからの方がスムーズですのでそちらに回すこととしますが、高校時代、県駅伝でも区間賞を獲得した実力者の復活を首を長くして待っています。

 

5区 区間8位 1時間12分23秒

正に雪辱を期す王者として臨んだ最後の箱根5区は、苦しいラストランとなりました。現区間記録保持者として区間賞の奪還、そして事実的な区間記録とされる1時間9分12秒の更新を目標に掲げた今大会、快調な滑り出しとはなりませんでした。順位は上げているものの、区間新記録どころか函嶺洞門、大平台、小涌園前と半分を過ぎても区間中位と、彼にしてみれば不本意だったことでしょう。ド素人の私には分かりませんが、足が上手く動かず、重い感覚があったそうです。しかし、しっかりと順位をシード圏内の9位まで上げ、復路に望みを託してくれました。思い返せば2年前の箱根駅伝、今回同様4区終了時点でシード圏外だったチームを救ったのは宮下選手でした。それからというもの、チームの最終走者には常に彼がいました。優勝すれば格別に気持ち良いアンカーだとは思いますが、負けるときは誰より無念さを痛感することでしょう。2年前の箱根以降、いつかこの人が優勝のゴールテープを切るところを観たいなとずっと思っていました。遂には叶わなかったわけですが...。遡ること昨年11月の全日本大学駅伝、走り始めた時は既にシード圏と1分近くの差がありました。テーピングでぐるぐる巻きの脚で苦しみながら走り抜くも、結果はシード圏外の10位。フィニッシュと同時に泣き崩れる姿を見るのは非常に辛かったです。もちろん箱根の優勝は観たかった、しかし、シード権を落としてこれ以上彼に十字架を背負わせることの方が私は何十倍も嫌でした。優勝できなかったのは残念ですが、シード権を取れた安心感でそこまで引きずることもない、と言ったところでしょうか。入学当初は無名ながら、チームのエースそして主将へと上り詰めた稀有な選手。山上りで色んな景色を見てきた彼が、いつか山頂で絶好の眺めを見られることを祈っています。今まで有難うございました。

 

往路まとめ

今年は、様々な感情になるジェットコースターのような往路でした。正直言って、今年はかなり諦めていたというか、シード落ちも本気で覚悟していました。それほどに全日本大学駅伝での大敗は深刻なもののように思えたからです。また、石田選手の起用を見送ったこと、これも私にとっては絶望そのものでした。彼ほどの選手が復路に回るわけがなく、往路での出場機会がないということは今回の箱根駅伝の回避宣言に等しく、出雲、全日本と彼の走りに引っ張られていたようにも見えたこの1年ですから、彼抜きでやっていけるのかと不安でした。しかし蓋を開けてみれば1区は何よりも面白い展開で、しっかりと流れに乗ることができ、怪我で苦しんだ次期エースが2区で昨年を上回る力走を見せ、続く3区も昨年の悔しさを晴らすかのような魂の走りを見せてくれました。4区は結果こそ奮わなかったですが、まだ3年生ということでリベンジを見るという新たな楽しみも生まれました。5区はとにかくこの大会に間に合って良かった、最後まで走り抜けるところを観ることができ、非常に嬉しく思いました。復路まで一気に書くと、新参者のくせに生意気な文章量になりますので、今回はここらへんで。有難うございました。